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経済的価値を付与する場所であるか否かで判断
審判所の着眼点、PE課税のポイントが明らかに

 経済の国際化が進むなか、海外に住む非居住者がインターネットサイトなどを利用して日本国内で事業を営むケースも珍しくない。非居住者が日本国内で事業を行う場合に、日本の所得税が課税されるか否かは、日本国内に恒久的施設(PE)があるか否かで判断される。
 このほど、この非居住者に係る恒久的施設の該当性を初めて判断した裁決事例が国税不服審判所から公表された。裁決例や裁判例がほとんどない分野だけに、今回紹介する裁決例は、国際課税の実務にとって参考になるものといえるだろう。

単なる倉庫であれば恒久的施設(PE)に該当せず
 非居住者が日本国内で行う事業から生じた所得には、国内に恒久的施設(PE)がない限り、日本の所得税が課税されない。
 今回紹介する事案は、非居住者である請求人が行うインターネット販売において、日本へ輸入した商品の発送業務等を行う本件アパートと本件倉庫が恒久的施設に該当するか否かが争われていたものである。
 請求人は、S国に出国し非居住者となった後も、日本国内においてS国から輸入した商品を日本国内の顧客に販売する事業を本件アパートと本件倉庫で行っており、商品の保管・梱包作業等は日本国内の従業員によって行われていた(参照)。

原処分庁、倉庫等は準備的な性格ではない
 原処分庁は、この本件アパートと本件倉庫で行われる作業について、単なる在庫管理や引渡しといった「準備的または補助的な性格の活動」の範囲にとどまるものとは到底認められないと指摘。本件アパートと本件倉庫は恒久的施設に該当するため、請求人は、日本の所得税の納税義務を負うことになると主張していた。
審判所、説明書は経済的価値を付加するもの
 審判所は、非居住者によって日本国内に設けられた事業を行う一定の場所が恒久的施設に該当するというためには、その場所が「準備的または補助的な性格の活動を行うことのみを目的とするもの」に該当しないことが必要であると指摘。
 本件アパートと本件倉庫については、その販売市場である日本国内における商品の在庫の唯一の保管場所であるとともに、輸入した商品に日本語版取扱説明書等の添付という経済的付加価値を付与する場所でもあり、事業の収益性の向上を図っていくうえで、重要な機能を有する必要不可欠の場所であったということができると判断。
 このような機能等を踏まえれば、本件アパートと本件倉庫は、顧客に販売するための商品の在庫の保管という単なる倉庫の機能に留まるものではなく、本件事業の遂行による利得の実現にとって重要かつ必要不可欠の機能を有しているということができるのであって、本件事業にとって準備的または補助的な範囲を超えるものというべきであるから、恒久的施設に該当するものというべきであるとした(参照)。そのうえで、請求人の本件事業から生じた所得のうち、恒久的施設に帰せられる部分に対しては、日本の所得税が課税されると結論付けている。

【表】審判所の着眼点と本事案へのあてはめ
審判所の着眼点 本事案へのあてはめ
@ 事業の遂行や事業による利得実現にとって不可欠の機能を果たすか否か 本件事業は、あらかじめ輸入した在庫商品を顧客の注文に応じて販売する形態であり、それにより、発注から納品までの期間が短縮でき、輸入配送費用を節減できるものと認められる。そうすると、本件アパートおよび倉庫は、事業の遂行およびこれによる利得の実現にとって必要不可欠の機能を果たすものであったということができる。
A 経済的付加価値を付与する機能を有するか否か 本件アパートおよび本件倉庫は、顧客に発送すべき商品に日本語版取扱説明書等の添付という経済的付加価値を付与する機能を有しているということができる。

 なお、日本の所得税を課税された請求人は、居住地であるS国において、外国税額控除の適用を受けることにより、二重課税の状態を解消することが可能だ。

恒久的施設(Permanent Establishment)とは?
 本件で適用される日本とS国との租税条約(日S租税条約)では、恒久的施設について、事業を行う一定の場所であって企業(または個人)がその事業を行っている場所をいう旨が規定されており、具体例としては、事業の管理場所、支店、事務所などが挙げられている。ただ同条約では、商品の在庫を保管などするための場所や一定の場所で行われる活動の全体が準備的または補助的な性格のものであれば、恒久的施設に該当しない旨が規定されている。なお、国税庁のタックスアンサーでは、日本国内に恒久的施設を有するかどうかの判定は、形式的に行うのではなく機能的な側面を重視して行うとされている。たとえば、事業活動の拠点となっているホテルの一室は恒久的施設に該当するが、単なる製品の貯蔵庫は恒久的施設に該当しないとされている。

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週刊「T&A master」458号(2012.7.9「SCOPE」より転載)

(分類:税務 2012.9.28 ビジネスメールUP! 1735号より )

 

 
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