第14回

『税効果会計における繰延税金の計上問題』

   青山学院大学教授 齋藤 真哉

 日本に限らず、多くの諸外国において、法人税等の会計処理として税効果会計が採用されている。税効果会計の処理方法としては、一般に繰延法と資産負債法があると説明されている。

 両者の相違は、基本的には税効果額の計算において顕著にみられる。税効果額は、基本的には「税効果額=一時差異等×税率」という算式により求められる。繰延法では、税効果額は一時差異等に一時差異等が発生した期間の税率を乗じて求められ、資産負債法では、一時差異等に一時差異等が解消する期間の税率を乗じて求められる。したがって、繰延法により計算される税効果額は、一時差異等が発生した期間の税金支払への影響額を示し、資産負債法により計算される税効果額は、一時差異等が解消する期間の税金支払への影響額を示すことになる。

 さて現在の日本の会計基準も、国際会計基準も、そして多くの諸外国においても、税効果会計の処理方法としては、資産負債法が採用されている。資産負債法は、一時差異等が解消する将来の期間の税金支払への影響額として税効果額を把握する考え方に基づいているため、理論的には、差異解消期間の税率を始め、将来の税法の規定について、また将来の課税所得の状況について予測を行わなければならず、必然的に税効果額は見積りの金額を示すことになる。例えば、企業再編税制や連結納税制度の導入、将来の収益力やタックス・プランニングなども、税効果額の把握に際して考慮される必要がある。

 こうした多様にして複雑な予測要素の存在が、税効果額の把握に、そして税効果額を示す貸借対照表項目、すなわち繰延税金資産と繰延税金負債の計上に大きな問題を生じさせている。特に回収不能な繰延税金資産の計上は、繰延税金資産について商法上配当制限が設けられていないこともあり、大きな問題である。

 そこで繰延税金資産及び繰延税金負債の計上について、長期間にわたって解消しない一時差異等に係るものは計上しないなど、一定の制限を設けることが必要であると考えられる。このように一定の一時差異等を税効果の認識対象から除外するという考え方は、すべての一時差異等を対象とする包括的配分と対比されて、部分的配分と呼ばれる。部分的配分の考え方は、差異解消期間の税金支払への影響に注目する点で、資産負債法と軌を一にする考え方であり、現在の会計基準を理論的により整合性あるものとするためにも取り入れることが望まれる。

バックナンバー

2001.11.14 ビジネスメールUP! 224号より )

 

 
過去のニュース、コラムを検索できます
 Copyright(C) LOTUS21.Co.,Ltd. 2000-2017. All rights reserved.
 全ての記事、画像、コンテンツに係る著作権は株式会社ロータス21に帰属します。無断転載、無断引用を禁じます。
 このホームページに関するご意見、お問合せはinfo@lotus21.co.jp まで