第16回

『税理士事務所の改正税理士法への対応とこれからの税理士業務』

   税理士 平川忠雄

《改正税理士法の重要項目への対応》

 平成14年4月施行の改正税理士法は、今日の経済社会の国際化・複雑化と納税者のニーズの多様化などの要請に応えるべく抜本的改正が行われたものといえる。従って改正税理士法の重要項目を充分に検討し新法への有効活用を図る必要がある。

1.税理士法人制度への適用の検討

 今改正税理士法における法人制度の趣旨(注1)において、「税理士の業務の共同化と継続性さらに賠償能力などを強化すべき」との必要性が高まりその法人化を求めた改正であると言える。税理士法人制度(注2)は、税理士業務のクライアントが「継続企業」であるため税理士事務所の業務の共同化と継続性へのニーズが大きいことから、その「外部的要請」による法人成りが促される。加えて、新しい税理士法人制度の適用による「メリット」も存在する。また税理士法人制度は「支店の設置」が認められていることから、遠隔地にある企業などへの関与にも有効活用できる。こうした有利面への課題として、「税理士法人の社員税理士の対外的責任である無限連帯責任」の存在があるが、関連して『寡占化が生じる』『営利優先型の法人が過当参入する』など、開業税理士(注3)にとって厳しい状況がもたらせられる実情が予測される。

  こうした背景を踏まえて、「法人成り」を検討するのであるが、次の事項について配慮が必要である。

(1) クライアント・事務所職員への説明と了解
(2) 社員税理士の選定と共同化への協力確認
(3) 個人事業の廃止に伴う諸問題の検討
(4) 法人化の認識と個人型経営権の棄却の確認
(5) 無限連帯責任への対応
(6) 法人の業務スキームの確立
(7) 補助税理士(注4)の選定
(8) 提携事務所・提携税理士の準備
(9) 会計法人などの関連会社の業務等の検討
(10)法人設立の時期の選定

2.意見聴取制度の拡充(注5)への対応

 税理士業務の画期的改正ともいえる新制度に対応するべく関与先との協議をすすめ、会計基準と内部チェック制度の確立など所要のシステムを構築して積極的に「添付書面の作成と提出」が出来る体制を整備することが必要といえる。特に法第33条の2第2項に規定する他の税理士が作成した申告書に対する添付書面の作成は「新規業務の展開」であることの認識が必要である。

3.報酬規定の策定  

  改正前において、税理士会の会則により定められていた税理士業務の報酬規定が削除された(注6)。契約自由の原則が全面的に導入されることになったため、自らの知的労働とそのサービスに見合う適正な報酬額の規定を策定すべきであり、新時代の税理士業務の出発点との認識をもって、関与先の合意が得られる新鮮な規定を策定することが、これからの業務の成否にかかわる問題と考えるべきである。

《構造改革新時代の税理士のあるべき姿》  

  新税理士法の施行による税理士制度の構造改革は、早いスピードで展開すると思われるので、この新時代に即した「税理士のあるべき姿」を探ってみたいと思う。

(1) 税理士の使命感を常に認識している。
(2) 研究・学習を行い、勤勉である。
(3) 問題意識を職業感覚として持っている。
(4) 事務所・法人ともに業態に特色と専門分野を有している。
(5) クロスセクションの税務指導が出来る。
(6) 常に進歩・拡充を求めている。
(7) 研鑚仲間・相談相手のネットワークを確立する。
(8) 補助税理士の育成に熱意を持つ。
(9) 職員の和を図り、働きの環境作りを行う。
(10)安定した知的サービスの収益を確保できる組織を立ち上げる。

あとがき 

  あるべき姿は著者の欠落している現在の実情の反省点でもあります。

(注1) 今回の税理士法改正における法人制度創設の趣旨は「税理士に対する納税者の複雑・高度なニーズに応えるとともに、税理士による継続的かつ安定的な業務提供や賠償責任能力に強化などの観点から、税理士の共同組織体である「法人制度」を創設する。」とされている。

(注2) 税理士法人制度の創設(第48条の2〜第48条の21) 従来、税理士が個人として行うこととされていた税理士業務を新たに法人形態でも行い得るよう、税理士法人制度が創設されました。その主な概要は次のとおりです。
(1) 税理士が共同して税理士法人を設立することができることとなり、その場合の社員は税理士でなければならず、また、その名称中に「税理士法人」という文字を使用しなければならないこととされています。(法48の2、48の3、48の4@)
(2) 税理士法人は、税理士業務のほか、定款で定めるところにより税理士業務に付随する会計業務などや税理士業務に付随しない会計業務などが行えることとされています。(法48の5、規21) また、社会保険労務士法施行令において、税理士法人も税理士業務に付随して社会保険労務士業務が行えることとされています。(令附則B)
(3) 税理士法人は、設立の登記によって成立し、その旨を日本税理士会連合会に届け出なければならないこととされています。(法48の7、48の9、48の10@) また、税理士法人は、成立の時に税理士会の会員となります。(法49の6B) なお、税理士法人は、従たる事務所(支店)を設けることもできます。
(4) 税理士法人の社員は、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負うことととされています。(法48の11)
(5) 税理士法人の事務所(従たる事務所を含む。)には、その所在する地域の税理士会の会員である社員を常駐させなければならないこととされています。(法48の12)
(6) 税理士法人の社員には、税理士法人の業務との競業禁止規定が設けられています。(法48の14)
(7) 税理士法人は、社員が一人になった場合には原則解散することとされています。(法48の18A)
(8) 税理士法人には、合名会社に関する商法の規定(連帯無限責任、代表権等)等を準用することとされています。(法48の21)

(注3) 税理士法基本通達 (税理士としての登録) 18 −1 税理士となる資格を有する者が、税理士となるには、社員税理士(税理士法人の社員である税理士をいう。以下同じ。)、補助税理士又は開業税理士(社員税理士及び補助税理士以外の税理士をいう。)のいずれか一の税理士として登録する必要があることに留意する。

(注4)  「補助税理士」としての税理士登録  税理士又は税理士法人の補助者として常時それらの税理士業務等に従事する場合には、その従事する事務所等を税理士名簿に登録することにより税理士となることができることとされました。この税理士を「補助税理士」という。(法2B、法18、規8二)

(注5)  意見聴取制度の拡充  従来の更正前の意見聴取制度に加え、計算事項等を記載した書面(法第33条の2に規定する書面)が添付されている申告書を提出した者について、あらかじめ日時場所を通知して帳簿書類を調査する場合には、その通知前に、税務代理権限証書(法第30条に規定する書面)を提出している税理士又は税理士法人に対し、添付された書面に記載された事項に関し意見を述べる機会を与えなければならないこととされた。(法35@、48の16)

(注6)  税理士の報酬については、会員が税理士業務と現行法第2条第2項に定める会計業務に関し最高限度額について、会則で定められています。従来、税理士会の報酬規定は、最高限度額を定め、かつ「成功報酬」を排除して依頼者の安全性を確保しているとの見解をとっていました。しかし、最高限度額を定めること自体が結果として標準報酬として機能するとの指摘を受け、規制改革委員会の公正有効な競争確保や合理性の観点からの要請により、今回の改正となる。

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2002.4.24 ビジネスメールUP! 284号より )

 

 
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