「適時に帳簿書類を提示し得る態勢での保存」がなければ青色取消
最高裁、「税務代理権侵害」の主張に「格別な理由なし」と一蹴
最高裁判所第一小法廷(横尾和子裁判長)は、平成17年3月10日、「法人が税務検査の際に適時に提示することが可能なように態勢を整えて帳簿書類を保存していなかった場合は、青色申告の承認の取消事由である法人税法127条1項1号に該当する事実がある場合に当たる」などと判示して、納税者が@青色申告取消処分及びA消費税等の更正処分及びこれらに係る過少申告加算税の賦課決定、の各取消しを請求していた事案について、納税者の上告を棄却した(平成16年(行ヒ)第278号 消費税更正処分等取消請求事件)。
関与税理士と税務署員の間に「税務代理権侵害」の厳しい対立
本件については、納税者(上告人)の関与税理士と調査を担当した税務署員との間に、「税務代理権侵害」についての厳しい対立があった。
調査担当者が上告人に対して無予告調査を行ったこと、上告人が調査理由の開示を求めた(口頭・文書)が調査担当者からは回答がなく調査の受入れが要求されたこと、調査担当者が「税理士は関係ない。」と上告人(代表者)に対して発言するなど、関与税理士の「代理権侵害」が行われたため、無予告の臨場調査から1年数ヶ月、調査への協力が行われず、調査担当者は帳簿書類等の内容を確認することができなかった。そのため、上告人は、@法人税に係る青色申告の承認の取消処分及びA消費税について、仕入税額控除の否認に伴う更正処分及びこれらに係る過少申告加算税の賦課決定を受けることになった。
本件は、被告(税務署長)の行った上記処分の取消請求事件であるが、第1審(熊本地裁)・控訴審(福岡高裁)ともに、上告人の請求は棄却されていた。
また、当該関与税理士は、「税務署員らによる違法な職務行為によって税務委任契約に基づく税務代理権を侵害され、同委任契約を破壊された」旨主張して、国を相手取り、損害賠償請求を行っている。こちらは、1審で棄却され(本誌No.068(2004.5.31)8頁参照)、控訴審(大阪高裁)の判決言渡し予定期日が3月29日に指定されている。
最高裁での争点
さて、本件の上告審においては、次のように上告受理申立て理由が挙げられている。
第1「消費税法第30条7項の帳簿及び請求書等の保存の解釈について」、第2「調査の事前通知と調査理由の開示について」、第3「関与税理士の代理権侵害について」、第4「関与税理士の質問若しくは抗議文に対する回答について(税理士法2条1項1号)」、第5「申立人が帳簿書類の提示に応じなかったことについての正当な理由若しくはやむを得ない事情(消費税法30条7項ただし書)について」、第6「本件青色承認取消事由(法人税法127条1項1号、法人税法126条1項)の解釈について」、第7「権利濫用ないし信義則違反(民法1条)について」。
最高裁では、上告審として受理する段階(平成17年3月3日決定)で、申立て理由中、第2〜第4及び第7を、重要でないとして排除している。上告人の主張からすれば第2〜第4は、本件の核心部分とも受け止められるが、法律審を担う最高裁からすると、下級審での判断に特段に言及することはないということなのだろう。
「応じ難いとする理由も格別なかった」
本件最高裁判決は、消費税法30条(仕入税額控除)の適用について、昨年12月16日の最高裁第一小法廷及び12月20日の最高裁第二小法廷判決を踏襲し、次のように判示している。「上告人は、被上告人の職員から上告人に対する税務調査において適法に帳簿等の提示を求められ、これに応じ難いとする理由も格別なかったにもかかわらず、帳簿等の提示を拒み続けたということができる。そうすると、上告人が、上記調査が行われた時点で帳簿等を保管していたとしても、同法62条に基づく税務職員による帳簿等の検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて帳簿等を保存していたということはできず、本件は同法30条7項にいう帳簿等を保存しない場合に当たり、上告人に同項ただし書に該当する事情も認められないから、被上告人が上告人に対して同条1項の適用がないとしてした本件各更正処分等に違法はないというべきである。」
青色取消は、事務運営指針を追認
青色承認取消事由の解釈については、下級審において多くの判決が集積されているものの、最高裁の判断は明らかにされていなかった。
「帳簿書類の提示を拒否したことが、青色申告承認取消事由に当たる」(東京高裁昭和56.10.21判決)とする判断が多いものの、「税務調査の際、調査担当者が最終的に本件調査打ち切ったことは、合理的な判断に基づくものであったとは認め難い」などとして、青色申告承認取消処分が取消された事例(松山地裁平成14.3.22判決)も見受けられる。
最高裁は次のように判示した。
「法人税法126条1項は、青色申告の承認を受けた法人に対し、大蔵省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録すべきことはもとより、これらが行われていたとしても、さらに、税務職員が必要と判断したときにその帳簿書類を検査してその内容の真実性を確認することができるような態勢の下に、帳簿書類を保存しなければならないこととしているというべきであり、法人が税務職員の同法153条の規定に基づく検査に適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかった場合は、同法126条1項の規定に違反し、同法127条1項1号に該当するものというべきである。」
課税庁は、事務運営指針で「帳簿書類を提示しない場合における青色申告の承認の取消し」を明らかにしており、当該租税実務が最高裁で追認された結果となった。
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(週刊「T&A master」107号(2005.3.21「最重要ニュース」より転載)
(分類:税務 2005.4.8 ビジネスメールUP!
693号より
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