「経営への実効的な影響力の有無」で、評価通達の適用を判示
東京地裁、「特別の事情」を認めず、当局の独自評価を排斥
東京地裁民事3部(鶴岡稔彦裁判長)は、平成17年10月12日、非上場株式の売買価格(100円)と課税庁が独自に算定した当該株式の時価(785円)との差額を課税価格とする贈与税の決定処分等の取消を求める訴えに対して、「評価通達によらないことが正当と是認されるような特別の事情は認められない。」と判示し、本件株式の評価は評価通達により配当還元価額(75円)によるべきであるから、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」には該当しないとして、決定処分等を取消した(平成15年(行ウ)第214号)。
事案の概要
原告は、オーストラリアの国籍・住所を有し、原告が会長を務めるX社は、(株)Aの海外代理店となっている。平成7年2月、原告は、(株)Aの取締役会長甲(平成8年3月に死亡)から同社株式63万株を総額6300万円(1株当たり100円)で譲り受け、原告の持株割合は6.6%になった。このほか、(株)Aの持株会社的な存在であるB(株)・C(株)についても譲り受けた。
被告(税務署長)は、原告の本件株式の譲受けが相続税法7条「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当するものと認定し、原告の平成7年分贈与税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分をした。なお、本件各処分における本件株式の評価額は1株当たり785円であった。
争点
(株)Aは、評価通達に規定する大会社であるが、また同時に、譲渡人の親族らにより構成される同族株主のいる会社にも該当し、原告は同族株主以外の株主に該当するから、評価通達の定めを適用すると、本件株式の価額は、配当還元方式により評価されるべきこととなる。この点は当事者間に争いはなく、配当還元方式により算出される本件株式の価額は、1株当たり75円と認められる。争いがあるのは、本件株式について評価通達に基づく評価方式によらないことが正当と是認されるような特別の事情があるかどうか、また、そのような特別の事情があるとして本件株式の時価はいくらと評価するのが相当か、という点である。
被告(税務署長)の主張
本件売買取引等の事情に照らせば、本件株式の時価の算定について、配当還元方式によって算定することは極めて不合理であり、評価通達に基づく評価方式によらないことが正当と是認されるような特別の事情がある。
本件売買取引及びこれと同時に行われた持株会社の売買取引によって、保有株式数を見る限り、譲渡人の地位の後継者たる地位を取得したものといえる。原告と譲渡人とは極めて密接な関係にある。原告を少数株主と同視することができない。
売買実例により把握される本来の時価(785円)に照らし、本件譲渡の対価(100円)は、不当に低額である。
原告は借入により購入資金を手当てしているが、その保証人に譲渡人甲(甲の死亡後は(株)Aの社長であり甲の子である乙)がなるなど、特殊な状況が認められる。
原告の主張
原告の(株)Aの保有割合は6.6%にすぎず、原告は取引先の会長又は株主としての地位以外に(株)Aに対する経営上の地位を有していない。評価通達によらないことが正当と是認されるような特別の事情は認められない。
判決
鶴岡裁判長は、「譲渡人の親族でもない原告が、(株)Aの事業経営に実効的な影響力を与える地位を得たものとは到底認められない。」「密接な関係があったとまでいうことも困難」などと判示し、評価通達に基づく評価方式によらないことが正当と是認されるような特別の事情は認められないとして、当局の独自評価(785円)を排斥した。
したがって、本件株式の評価は評価通達により配当還元価額(75円)によるべきであるとし、売買価格(100円)は、「著しく低い価額の対価での譲渡」には該当せず、贈与税の決定処分等を取消した。
民事3部、別件でも「実効的支配」を判示
判決に見られる被告の主張には、無理がある。「後継者たる地位を取得」・「少数株主と同視できない」とする根拠が、保有株式数から立証ができていない。
本件は、相続税の調査において、相続開始1年前の株式譲渡が発覚した経緯があり、課税庁は、株式の見せかけ譲渡などの租税回避行為を疑っていたと思われる。
本件判示によれば、「譲渡人の親族でもない原告が、(株)Aの事業経営に実効的な影響力を与える地位を得たものとは到底認められない。」とされている。事案(の株式持分割合)からすれば、当然の判示だが、この判決には伏線があった。
同じ東京地裁民事3部(鶴岡稔彦裁判長)は、平成16年3月2日判決言渡の別件で次のように判示していた。
「本件有限会社においては、原告らにおいて、50%以上の出資割合を有していなくても、なお本件有限会社を実効的に支配し得る地位にあると認められるところ、前記のとおり、類似業種比準方式による株式評価を原則とし、経済的に配当を期待する程度の価値のみ把握しているにすぎない少数株主についてのみ配当還元方式を採用すべきとする評価通達の趣旨からすれば、本件有限会社が保有していた○○株式会社の株式を例外的評価方法である配当還元方式で評価することは相当でないと解されるのであり、本件においては、評価通達を画一的に適用することが著しく不適当と認められる特別の事情があるものと認められる。」
本件では、被告が「譲渡人の地位の後継者たる地位を取得したもの」と主張したが、民事3部は、実効的支配が判断基準となっており、被告の主張は斥けられた。
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(週刊「T&A master」136号(2005.10.31「最重要ニュース」より転載)
(分類:税務 2005.11.25 ビジネスメールUP!
780号より
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