更地(土地区画整理事業の仮換地)でも、小規模宅地等に該当
最高裁、小規模宅地の評価減特例(相続税)の現行の取扱いを否認
最高裁判所第三小法廷(上田豊三裁判長)は平成19年1月23日、土地区画整理事業における仮換地指定の土地への「小規模宅地等についての評価減の特例(以下「本件特例」という)」の適用が争点となっていた事案について、「相続開始の直前においては本件土地は更地となり、本件仮換地もいまだ居住の用に供されてはいなかったものであるが、それは公共事業である土地区画整理事業における仮換地指定により土地の使用収益が禁止された結果、やむを得ずそのような状況に立たされたためであるから、本件特例が適用されるものというべきである。」と判示し、本件特例の適用を認められないとする課税処分を容認した原判決を破棄し、福岡高裁に差し戻した。
事案の概要
本件は上告人(相続人)らが、相続財産中の土地について租税特別措置法(以下「措置法」という)69条の3の本件特例の適用があるものとして相続税の申告をしたところ、被上告人(税務署長)から、本件特例の適用は認められないとして相続税の更正処分等を受けたので、その取消しを求める事案である。
平成9年3月ころ、相続財産となる甲土地上には相続財産となる甲建物があり、被相続人Bが居住していた。また、隣接する乙土地(相続財産)上には、上告人X1の所有する乙建物があり、上告人らは、乙建物に居住していた。甲土地・乙土地(併せて「本件土地」という)は、土地区画整理事業の施行地区内にあり、その施行者である福岡市は、Bに対し、平成9年3月18日付で、@本件土地の仮換地を指定すること、A仮換地の指定の効力発生の日である同月19日から本件土地を使用収益することができないこと、B別に定めて通知する日まで本件仮換地を使用収益することができないことなどを通知した。Bは仮換地指定通知に伴い、平成9年11月18日ころ、甲建物から福岡市の仮設住宅に転居し、X1らも同じころ乙建物から仮設住宅(Bの転居先の隣室)に転居した。甲建物および乙建物は、平成9年12月18日ころ、取り壊され、本件土地は更地となった。
Bは、平成10年10月18日死亡し、本件土地は、上告人X1が相続した。
福岡市は、上告人X1に対し、平成12年3月27日付けで、本件仮換地について使用収益を開始することができる日を同年4月1日と定める旨通知した。上告人らは、平成12年5月21日、本件仮換地上に建物を新築する工事請負契約を締結し、上告人らは、同13年3月20日、建物の引渡しを受け、同月27日、当該建物に入居した。
控訴審の判断
課税庁は、本件の場合は居住用建物の建築計画はあるものの現実的に建築工事に着工された事実はないことから、本件特例は適用できないとして、課税処分を行った。
福岡高裁は、次のように判示し、課税処分を容認した。
「本件特例の適用に当たっては、相続開始の直前において当該土地を被相続人等が現に居住の用に供していたか、あるいは、少なくとも相続開始時に当該土地において現実に居住用建物の建築工事が着工され、当該土地が居住用建物の敷地として使用されることが外形的、客観的に明らかになっている状態にあることが必要と解すべきである。」
上告審での両当事者の主張
上告人は、上告受理申立書において、以下のとおり主張した。
「措置法通達69の3−5には、一定の要件を要件を備える場合には、必ずしも被相続人等が相続開始直前において建物を居住用として使用していなくても、本件特例の適用を認めている……(中略)本件の事案は、措置法69条の3について目的論的解釈による拡張解釈をしたうえ、本件特例を適用して納税者である原告を救済すべき必要性がより強いと考えられる。(中略)措置法69条の3の趣旨・目的からすると、同条を拡張解釈すべき場合は、本件通達を満たす場合に限定されると解すべき理由はなく、その他にもありうるのである。」
一方、課税庁は、「本件特例のような例外的な措置として定められた規定の解釈は、租税負担の公平の観点からも厳格に行われるべき」などと反論していた。
最高裁の判示
最高裁は、上告人の主張を受け入れ、以下のとおり判示した。
「相続開始の直前においては本件土地は更地となり、本件仮換地もいまだ居住の用に供されてはいなかったものであるが、それは公共事業である本件事業における仮換地指定により両土地の使用収益が共に禁止された結果、やむを得ずそのような状況に立たされたためであるから、相続開始ないし相続税申告の時点において、B又は上告人らが本件仮換地を居住の用に供する予定がなかったと認めるに足りる特段の事情のない限り、甲土地は、措置法69条の3にいう「相続の開始の直前において……居住の用に供されていた宅地」に当たると解するのが相当である。そして、本件においては、B及び上告人らは、仮換地指定通知に伴って仮設住宅に転居しており、また、上告人らは、相続開始後とはいえ、本件仮換地の使用収益が可能となると、本件仮換地上に本件ビルを建築してこれに入居したものであって、上記の特段の事情は認めることができない。したがって、甲土地について本件特例が適用されるものというべきである。」
最高裁の上記判示は、措置法通達に反したものではないが、措置法通達69の3−5に該当する場合にだけ限定して「居住用宅地等」として取り扱ってきた現行の課税実務に反する内容となる。課税庁においても現行通達の見直しが検討されようが、実務家にも適切な検討が求められよう。
(法令・通達の条文番号については改正されているが、記事中の条文番号は判決文に記載のとおりである。)
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キーワード 「更地」⇒23件
(週刊「T&A master」197号(2007.2.5「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2007.3.5 ビジネスメールUP!
958号より
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