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反対株主の株式買取請求では買取代金確定時での課税関係に
所得税法上の権利確定主義を援用

 

 東京地裁民事第2部(大門匡裁判長)は7月10日、株式譲渡制限のための株主総会決議に反対した株主の株式買取請求に対する改正後の所得税法25条1項5号(自己の株式の取得)のみなし配当課税の適用が争点となった事案に対し、「買取価格が決定した『和解』の時期を基準として、改正後の所得税法25条1項が適用されるとする国の主張は正当である。」などと判示して、納税者の請求を斥けた。

事案の概要
 本件は、株主総会における株式譲渡制限のための定款変更決議に反対した株主である原告らが株式買取請求権を行使したことによって会社から取得した代金に平成13年法律第80号による改正後の所得税法25条1項5号(自己の株式の取得)のみなし配当課税の規定を適用して行われた原告らの所得税の申告等について、当該規定は適用されずすべて株式等に係る譲渡所得等として課税されるべきであることを理由に更正の請求をしたところ、更正の理由がない旨の通知を受けたため、原告らが、その各通知の取消し等を求めている事案である。
 A社は、平成13年6月28日に開催された定時株主総会で譲渡制限の決議案を可決したが、原告らはこの決議案に反対し、平成13年7月17日、当時の商法349条1項に基づき、A社に対し、A社の株式を公正な価格で買い取るように請求した。
 原告らは株式買取価格を協議するため、裁判所に対して、株式買取価格の決定請求などを行い、平成14年4月12日、1株当たりの買取価格を1,554円と合意するなどを内容とする「和解」を成立させた。
 一方、平成13年10月1日に施行された商法等改正法により、自己株式の取得および保有が一般的に認められたことから、これに伴い、所得税法25条1項5号により、自己株式の取得の場合のみなし配当課税が設けられることになった。
 すなわち、本件では、改正所得税法25条1項の施行日よりも前に行われた本件株式買取請求が、改正所得税法施行後に買取価格などが決定した場合において、改正所得税法のみなし贈与課税が適用されることになるかが主な争点となった事案である。
 

   

原告の主張
 原告らは、以下のように主張した。
 「商法等改正法整備法44条2項は、『自己の株式の取得』の時期と、それによる金銭等の『交付』の時期を区別して、『自己の株式の取得』の時期を基準とし、これが本件施行日以後にされたか本件施行日前にされたかによって本件改正後の所得税法25条1項が適用されるか否かを区分している。この規定の構造に着目し、反対株主の株式買取請求についてこれを適用すれば、『自己の株式の取得』の時期は、代金の支払や株券の引渡しの時期ではなく、その前提となる原因事象の時点を指すと考えるべきであり、それは、反対株主による株式買取請求の意思表示が会社に到達した時点であると解すべきである。」
 「租税法律主義の見地から、納税者の信頼を保護し、租税効果についての予測可能性と法的安定性を保障しようとすれば、商法等改正法整備法44条2項の『自己の株式の取得』の時期は、反対株主が自らの意思で会社に株式を売り渡すことを決定し、この意思決定に基づき会社と当該株主との間に株式売買に関する権利義務関係を発生させる行為である株式買取請求をした時点であると解すべきである。」
 「本件における商法等改正法整備法44条2項の『自己の株式の取得』の時期は、原告らが本件株式買取請求をした平成13年7月17日であり、本件施行日である同年10月1日よりも前であるから、本件株式買取請求に係る収入金額に本件改正後の所得税法25条1項が適用されることはない。」

裁判所の判断
 大門裁判長は以下のように判示し、原告の主張を斥けた。
 「所得税法は、同法36条1項が収入金額の計算について『収入すべき金額』としていることからすると、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして当該権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前、すなわち権利確定主義を採用しているものと解される。そして、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期はそれぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである。」
 「本件の経緯からすると、本件株式買取請求に基づく原告らの本件会社に対する代金債権は、平成14年4月12日までは確定しなかったというべきである。一方で、本件和解の成立により買取価格が定まるとともに、その成立と同じ日にその価格に基づく代金が株券の引渡しと引換えに支払われたのであるから、この時点において株式代金債権が確定したことは明らかである。」
 「以上の次第であるから、商法等改正法整備法44条2項によれば、本件株式買取請求に係る収入金額には、本件改正後の所得税法25条1項が適用されるとする被告の主張は正当である。」

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  キーワード 「株式買取請求」⇒51

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(以上、最新順)

週刊「T&A master」227号(2007.9.17「今週のニュース」より転載)

(分類:税務 2007.10.31 ビジネスメールUP! 1050号より )

 

 
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