特約遺族年金の二重課税訴訟、納税者逆転敗訴
「年金と年金受給権とは法的に異なるもの」

 遺族に支払われた年金払保障特約年金への所得税課税の可否が争点となった事案に対し、福岡高等裁判所第1民事部(丸山昌一裁判長)は10月25日、「本件年金は、年金受給権とは法的に異なるものであり、相続税法3条1項1号に規定する『保険金』に該当せず、所得税法9条1項15号所定の非課税所得に該当しない。」などと判示し、原判決を取り消し、納税者の請求を棄却する逆転判決を言い渡した。
 第一審(長崎地裁)では、「相続税を課税した上、更に個々の年金に所得税を課税することは、実質的・経済的には同一の資産に関して二重に課税するもの」として納税者の請求を認容していた。

事案の概要
 本件は、被控訴人(納税者)の夫が締結していた生命保険契約について発生した保険事故(夫の死亡)に基づいて、被控訴人が受け取った年金払保障特約年金230万円(本件年金)から必要経費9万2,000円を控除した220万8,000円を、雑所得に当たるとして、その年分の所得金額に加算して所得税の更正が行われたため、被控訴人がその取消しを求めた事案である。

第一審(長崎地裁)の判示
 原判決は、「相続税法3条1項によって相続財産とみなされて相続税を課税された財産につき、これと実質的、経済的に見れば同一のものと評価される所得について、その所得が法的にはみなし相続財産とは異なる権利ないし利益と評価できるときでも、その所得に所得税を課税することは所得税法9条1項15号によって許されない」・「相続税法における年金受給権の評価は、将来にわたって受け取る各年金の当該取得時における経済的な利益を現価(性格にはその近似値)に引き直したものであるから、これに対して相続税を課税した上、更に個々の年金に所得税を課税することは、実質的・経済的には同一の資産に関して二重に課税するもの」などと判示し、本件更正処分を取り消した。

国の主張
 控訴人(国)は、第一審に引き続いて、「本件年金(現実に支給された230万円という現金)は、本件年金受給権(基本権としての定期金に関する権利)とは法的に異なるものであり、所得税法・相続税法各規定の文理解釈によれば、所得税法9条1項15号の非課税所得に該当しないことは明白である。」と主張した。
 また、控訴審では、源泉徴収の規定(所得税法207条)などを挙げ、「所得税法上、生命保険契約に基づく死亡保険金として支払われる年金に対する所得税の課税が予定されている。」と追加主張した。「所得税法9条1項15号(相続等により取得するものの相続税の非課税)の立法に際しても、相続税法3条1項1号(死亡保険金のみなし相続財産)の立法に際しても、みなし相続財産である年金受給権に基づいて毎年支給される年金が所得税の課税対象となることが予定されていた。」との説明も行われた。
 さらに、「仮に本件年金に係る所得が非課税所得に当たるとすれば、そもそも源泉徴収自体が誤りであったことになり、被控訴人は、源泉徴収税額の全部又は一部の還付を受けることができない。」として、課税処分が総額主義の観点から適法というべきであると主張した。

納税者の主張
 被控訴人(納税者)は、一審に引き続いて、「基本権(⇒年金受給権)と支分権(現実に支給される各年金)とは、民法上は別個の債権ではあるが、一対として財産的価値を実現させる債権である。(基本権に対して相続税課税を行った上で、支分権に対して所得税課税を行うことは、)たとえ形式的には別異の権利・所得に該当するとしても、実質的・経済的には同一の資産に関して二重に課税することは明らかであり、所得税法9条1項15号の趣旨により許されない。」と主張した。
 国の追加的主張に対しては、「本件年金については、所得税法35条の雑所得に該当するか否かが問題であって、同法207条(源泉徴収の規定)はその根拠となるものではない。」・「誤って徴収された源泉所得税額は控除できないと主張することは、信義誠実の原則、禁反言の法理に照らして、許されないというべきである。」と反論した。

裁判所の判断
 丸山裁判長は、本件年金にかかる所得に対する所得税の課税について、「所得税法9条1項15号が、相続ないし相続により取得したものとみなされる財産に基づいて、被相続人の死亡後に相続人に実現する所得に対する課税を許さないとの趣旨を含むものと解することはできない。」・「生命保険契約において、被相続人の死亡により保険金受取人が取得するものは、保険金という金銭そのものではなく、保険金請求権という権利であるから、相続税法3条1項1号にいう『保険金』は保険金請求権を意味するものと解される。(略)所得税の課税対象とならない財産は、保険金請求権という権利ということになる。」・「本件年金は、本件年金受給権とは法的に異なるものであり、夫の死亡後に支分権に基づいて発生したものであるから、相続税法3条1項1号に規定する『保険金』に該当せず、所得税法9条1項15号所定の非課税所得に該当しないと解される。したがって、本件年金にかかる所得は所得税の対象となるものというべきである。」と判示した。
 また、所得税法207条(源泉徴収の規定)や立法当時の見解から、「所得税法は、本件年金のように、生命保険契約に基づく死亡保険金として支払われる年金について、所得税の課税を予定しているものということができる。」と判示して、国の主張を採用した。
 丸山裁判長は、本件更正処分は適法であるものとして、被控訴人の請求を棄却する逆転判決を言い渡した。

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解説記事 みなし相続財産(生命保険金・退職金)への所得税非課税の効果を検証すべき 2007年 11月 12日
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オフィシャル税務 特約遺族年金への所得税課税を二重課税と判示 2006年 12月 04日
(以上、最新順)

週刊「T&A master」233号(2007.11.5「今週のニュース」より転載)

(分類:税務 2007.12.21 ビジネスメールUP! 1071号より )

 

 
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