東京地裁、西武鉄道有報虚偽記載で個人株主176人の請求を認容
一部原告につき公表日終値と売却価格との差額を損害と認定
東京地方裁判所民事第8部(難波孝一裁判長)は4月24日、平成16年に発覚した西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載事件に絡み、個人株主ら289人が同社や元取締役らを相手取り総額13億円余の損害賠償を求めていた訴訟で、原告のうち176人、総額3億1千万円余の請求を認容する判決を言い渡した。
事案の概要と主な争点
事件は平成16年10月13日、コクドおよびプリンスホテル(コクド子会社)が個別管理する西武鉄道の個人名義株式を両社が実質的に保有し、西武鉄道が平成12年3月期〜16年3月期の有価証券報告書(有報)の訂正報告書を提出したことなどから発覚。同社株式を市場1部に上場させていた東証は同日、少数特定者持株数に係る上場廃止基準への該当が判明したとして株式の監理ポスト割当てを発表し、その後、12月17日付で上場廃止とした。
原告らは虚偽記載が発覚した平成16年10月13日現在で同社株式を所有していた株主で、西武鉄道がコクド所有に係る同社株式の株式数を過少に記載した有報・半期報告書を継続して提出し、その虚偽記載を訂正せず、またコクドも当該虚偽記載に積極的に関与したために損害を被ったと主張。
@西武鉄道、Aコクドを吸収合併したプリンスホテルに対して不法行為(民法709条、719条1項前段)に基づき、B@・Aの元代表取締役TY、C@の元代表取締役TH、D@の元代表取締役K(亡K)の相続人Kに対しては不法行為等に基づき、連帯して損害賠償金総額13億2,269万9,965円および遅延損害金の支払いを求めた。
主な争点は、(1)被告らに民法709条、719条1項前段の違法行為があるか、(2)原告らに生じた損害があるか、それはいくらか。
判決では、@虚偽記載と不法行為の成立要件としての違法行為の成否、A被告らの不法行為責任の有無、B各原告の損害の有無、D各被告の賠償すべき損害額について、この順に検討する構成が採られている。
有報虚偽記載と違法行為の成否
有報における虚偽記載と違法行為の成否について、判決は「有価証券報告書等を提出する会社及び当該会社の取締役は、有価証券報告書等の提出に当たり、その重要な事項について虚偽の記載がないように配慮すべき注意義務があり、これを怠ったために当該重要な事項に虚偽の記載があり、それにより当該会社が発行する有価証券を取得した者に損害が生じた場合には、当該会社及び当該取締役は、当該取得者が記載が虚偽であることを認識しながら当該有価証券を取得した等の特段の事情がない限り、当該損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである」と述べている。
被告らの不法行為責任の有無
そのうえで、判決は元代表取締役としての3被告の責任の有無を検討。TYについては、「被告西武鉄道の代表取締役としての有価証券報告書等の提出に当たりその重要な事項について虚偽の記載がないように配慮すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った」とし、昭和59年4月1日以降に提出された同年3月期の有報から平成16年3月期中間期の半期報告書までにおいて重要な事項につき虚偽の記載を続けていたと認定した。また、同氏が昭和32年10月から平成16年10月13日までコクドの代表取締役の地位にもあったことに触れ、@コクドの代表取締役として名義株の存在を公表しなかった行為は同社の名義株の存在とその不公表が西武鉄道による有報等の虚偽記載の前提となっていた、A同氏が名義株の存在をコクドにおいて公表することを決断し実施すれば西武鉄道が有報等の虚偽記載を継続することは不可能であったとし、「被告西武鉄道の有価証券報告書等の虚偽記載が西武鉄道株式の取得者との関係で不法行為となる場合においては、被告TYの当該行為も、当該取得者との関係で、被告西武鉄道の不法行為と共同の不法行為(民法719条1項前段)を構成する」と述べ、結果、「昭和59年4月1日から平成16年10月13日までの間に提出された被告西武鉄道の有価証券報告書等の虚偽記載について不法行為責任を負う」とした。THおよび亡Kについても、代表取締役としての在任期間や関与の経緯に応じ、責任を肯定。
さらに、西武鉄道についても不法行為責任を肯定するとともに、プリンスホテルについては、西武鉄道の不法行為について名義株の存在を公表しないことにより積極的に関与したことから西武鉄道との共同不法行為を構成するとし、責任を肯定している。
損害の有無および算定
原告らの主張する損害額としては、@対価として支出した取得価格全額が損害額、A上場プレミアとしての価値相当部分が損害額、B虚偽記載が公表された平成16年10月13日(終値1,081円)から西武鉄道株式の株価が下落したことが損害額との3通りのものがあったが、難波裁判長は@・Aを検討のうえ斥け、Bを検討。まず、保有原告ら(株式を売却せずに本件口頭弁論終結時に西武ホールディングス株式を所有する原告ら)の損害の有無を検討し、西武HDが平成19年5月21日以降、単元未満株式の買取請求に対して1株1,175円での買取りに応じていることなどから、「保有原告らが有する西武ホールディングスの株式の価格が、1株1081円を下回っているとは認められない」とし、その主張を斥けた。
一方で、処分原告ら(平成16年10月13日以降に株式を売却した原告ら)については、「売却した西武鉄道株式について、平成16年10月13日の終値である1株1081円と比較して、同表(編注・別紙損害等一覧表)「1081円と売却価格との差額」欄記載の額のとおりの損失を被った」ものと認定。虚偽記載と処分原告らの売却による損失との相当因果関係をも肯定したうえで、各被告が賠償すべき損害を検討し、被告らに対する、176原告の総額3億1,507万328円の請求を認容したものである。
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(週刊「T&A master」258号(2008.5.19「今週のニュース」より転載)
(分類:会社法 2008.7.2 ビジネスメールUP!
1143号より
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