相続開始前に取得時効が完成していた土地(宅地)の評価額は零円
審判所、原処分庁による通知処分を全部取消し
大阪国税不服審判所は、相続開始前に既に取得時効が完成していた事実を認めた判決が確定したことから、請求人が更正の請求をしたところ、原処分庁が更正すべき理由がない旨の通知処分を行った事案で、取得時効の完成事実を認めた判決の確定が通則法23条2項1号の規定に該当すると判断。相続した土地(宅地)の評価額は零円となり、納付すべき税額が過大であったことから、原処分庁による通知処分の全部を取り消した(大裁(諸)平19第15号)。
自用地として土地(宅地)の価額を評価
請求人ら(共同審査請求人総代Aほか2名)およびBは被相続人の共同相続人であり、被相続人の死亡により開始した相続(以下、本件相続という)により取得した財産について遺産分割協議を行い、請求人らは土地449.58m2(以下、本件土地という)をそれぞれ3分の1の持分で相続した。請求人らおよびBは上記遺産分割協議に基づき、法定申告期限内に相続税の申告書を共同で原処分庁に提出。その際、土地の価額を評価するにあたり、土地はXが使用しているものの、使用貸借契約に基づくものであると考え、自用地としての価額で評価した。本件土地は相続を原因とする請求人らの持分をそれぞれ3分の1とする所有権移転登記を経由した。その後、Bが死亡し、請求人らが本件相続に係るBの相続税の納付義務を承継した。
取得時効を援用する意思表示
Xら(Xほか2名)は請求人らを被告として、本件土地に係る共有持分移転登記手続きを求める訴訟を提起。その理由は、本件土地は死亡したXらの父が昭和34年ころに被相続人から贈与されたというもの。Xらは訴訟の第1回口頭弁論期日に本件土地につき長期取得時効を援用する旨の意思表示をした。これに対し、請求人らは贈与および取得時効のいずれも否認、本件土地の登記名義が被相続人であったこと、長年にわたり賃料相当の金員を収受していること等を主張し攻撃防御に努めた。訴訟では、Xらの請求を認める判決がなされ、次の事実が認定された。@贈与の事実は認められない、AXらの亡父は昭和34年3月28日には本件土地を占有しており、同人の死亡後はその妻やXらが占有を承継し、占有開始から20年目に当たる昭和54年3月28日を経過した時点で本件土地を時効取得した。
請求人らはXらを被控訴人として控訴したが控訴は棄却、上告しなかったことから上記判決が確定した。請求人らは判決の確定により本件土地が相続財産ではなかったことが確定したとして、相続税および承継したBの相続税について、それぞれ更正の請求をした。これに対し、原処分庁は更正すべき理由がない旨の通知処分を行った。
通則法23条2項1号の要件を満たす
審査請求における争点は、相続開始前において既に取得時効が完成していた事実を認めた判決が確定したことが、通則法23条2項1号に規定する、課税標準等または税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときに該当し、それにより同条1項1号に規定する納付すべき税額が過大であるときに該当することとなるか否か。
審判所の通則法23条2項に係る判断は次のとおり。請求人らは本件相続に係る相続税の申告にあたり、相続開始日において本件土地はXらに対して使用貸借により貸し付けているという事実、換言すると、Xらによる取得時効の完成が認められないという事実を基礎とし、そのため本件土地を自用地としての価額で評価して申告したが、その後の判決によって、相続開始日前には既に所有権の取得時効の期間が満了し、本件土地の取得時効は完成していたという事実が確定したものである。このことは、申告の基礎とした事実と判決で確定した事実とに相違があるといえる。判決で確定した事実は、相続開始日において本件土地には、時効の援用以外の取得時効の要件が満たされており、請求人らの意思いかんにかかわらず、Xらの時効の援用があれば一方的に所有権を時効取得される状態にあったということであり、これは本件土地の価額に影響を及ぼすべき事情として、相続税の課税標準、ひいては税額の計算に影響を与えるものといえる。そうすると、判決により申告の基礎としたところと異なる事実が確定したものであるから、通則法23条2項1号の規定の要件を満たしていることになる。
経済実態に対する課税場面では適用されず
一方、請求人らの民法144条の遡及効により本件土地が被相続人の財産ではなくなるとする主張には、同条の規定が経済実態的にも原状回復を指向する民法545条1項などと異なり、経済実態的な事実関係までも遡及的に覆すものではなく、時効の効果は民法145条に規定する時効の援用を停止条件として確定的に生じると解されることからすれば、相続による遺産の取得という経済実態に対する課税場面である本件には適用されず、課税上、所有権の時効取得の効果は遡及しないというべきであるとした。
そのうえで、本件土地の価額について、本件土地は相続開始時において既に時効期間が経過しており、相続人にとっては所有権を確保すべき攻撃防御方法がないために、相手方に時効を援用されれば所有権の喪失を甘受せざるを得ない状態の土地であることが判決の確定によって明らかなところ、このような状態の土地は相続人が所有権を確保しようとすれば、時効を援用する相手方に対し、課税時期現在における当該土地の客観的交換価値に相当する金員の提供を要するのが一般的である土地ということができるので、そのことを価額に影響を与える要因として考慮すると(評価通達1の(3))、土地の価額と提供を要する金額が同額であることから、結局のところ、その財産の価額は零円になると解するのが相当と認められると判断し、原処分庁による通知処分の全部を取り消した。
※
記事の無断転用や無断使用はお断りいたします
⇒著作権等について
T&Amaster 読者限定サイト
検索結果(注:閲覧には読者IDとパスワードが必要になります)⇒ID・パスの取得方法
キーワード 「時効」⇒100件
(週刊「T&A master」262号(2008.6.16「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2008.8.1 ビジネスメールUP!
1155号より
)
|