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無償返還合意・相当の地代通達8を排除すべき事情は認められない
無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の8割評価を容認

 東京地裁民事第2部(岩井伸晃裁判長)は7月23日、無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の評価について争われた事案に対し「本件各土地の時価の評価を、相当地代通達8に従って行なうことは、合理性な評価方法による適正な評価であるというべき」などと判示して、納税者の請求を棄却する判決を言い渡した。

事案の概要
 本件は、相続開始時に特別医療法人に貸借されていた本件各土地に係る被相続人の共有持分の時価につき、その相続人である原告が財産評価基本通達25(1)の貸宅地の評価に関する定めに基づき、自用地として評価した価額から借地権割合70%相当額を控除した後の価額を評価額として、相続税の申告をしたところ、所轄税務署長が、無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の評価に関する特例を定める通達の定め(「相当地代通達8」)に基づき、自用地として評価した価額の80%相当額を評価額として、相続時の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をしたため、原告が、上記各処分はいずれも違法であるとして、その取消しを求めている事案である。

原告の主張
 (1)土地の返還に当たって、借地人が賃貸人に対し、金員の請求をすることができる旨の法律上の規定は存在しないから、無償返還の合意は無意味であり、私法上の効力を有しない。また、借地契約の更新が有効に拒絶されるか否かが問題となる場合に、賃貸人側の正当事由の有無の判断における補助的事情として、返還の対価の提供があるか否かが斟酌されることがあるが、仮に、無償返還の合意が、この意味での返還の対価の提供を不要とする旨の合意であるとすれば、それは、借地人に不利益な定めであるから、借地法11条および借地借家法9条により無効である。無償返還の合意は私法上無意味または無効であるから、その合意および届出の有無によって税額計算の基礎となる財産の価額の評価に差異を設けている相当地代通達8の定めは不合理である。
 (2)相当地代通達においては、貸宅地の評価について、同通達7の定めもある。同通達7の定めは、通常の地代より高い地代が定められている借地権の価額は、通常の地代の定めのある借地権より廉価であり、実際に支払っている地代の額が相当の地代に達したときは借地権が無価値となるとするものであると考えられ、通常の地代の定めがある本件でも適用できるものである。したがって、仮に本件各土地を相当地代通達によって評価するとしても、同通達8ではなく、同通達7によるべきである。
 (3)仮に無償返還の合意が有効であったとしても、その基礎となる特殊な関係は、一身専属的で相続性がないから、本件相続により無償返還の合意は無効となったものと解すべきである。したがって、被相続人による無償返還の合意および届出がされたことを理由として、本件各土地の価額を相当地代通達8により算定することはできない。

裁判所の判断(抜粋)
 (1)土地の賃貸借契約に係る経済的実態は様々であり、土地所有者と借地人との間に利害の共通する特殊な関係がある場合には、土地所有者と借地人との間の関係は、財産評価基本通達25において想定されている通常の取引条件と異なる面があり、これを課税関係に反映させることには、合理性があるということができる。
 (2)無償返還届出の税法上の性質・効果等に照らすと、本件届出書に係る無償返還届出は、認定課税の回避という課税上の利益を享受するための公法上の行為として課税庁に対して行われ、現にこれを享受し得る効果を伴うものとして有効に成立していると認められる以上、当該届出に係る当事者間の無償返還合意の私法上の効力のいかんによって、当該届出の税法上の効果が左右されるものではないというべきである。
 本件賃貸借契約の締結当時、借地人となる本件法人は、本件各土地の共有者であるAが代表者理事長、他の共有者で同人の妹であるB(被相続人)が理事、同人らの家族が他の理事を務めており、同人らの亡父が本件法人の前代表者理事長として亡父個人との間で締結した使用貸借契約を事実上継承する形で、本件賃貸借契約の締結がされたものであり、このような特殊な人的関係に基づき無償返還届出書が提出され、同契約の締結当時、利害関係のある第三者間のような権利主張がされることは想定されない状況にあったのであるから、本件届出書に係る無償返還合意が借地人である本件法人にとって必ずしも現実に不利なものであったと認めるには足りず、その私法上の効力を否定すべき事情も認め難い。
 (3)相当地代通達7および8の文理ならびに同通達8の趣旨等に照らすと、借地権が設定されている土地につき、無償返還届出書が提出されている場合については、専ら同通達8が適用されるものと解するのが相当である。
 (4)@本件賃貸借契約の締結に際し、土地所有者から借地人に対し何ら経済的価値が移転しておらず、借地人に帰属すべき利益もなかったという経済的実態が、本件届出書の提出により、その時点における状況として明らかにされており、また、A本件届出書に係る無償返還届出は、認定課税の回避という課税上の利益を享受するための公法上の行為として課税庁に対して行われ、現にこれを享受し得る効果を伴うものとして有効に成立していると認められる以上、当該届出に係る無償返還合意における一部当事者の私法上の地位がB(被相続人)から原告らに承継されたことによって、上記@の経済的実態が左右されるものではなく、また、上記Aの届出の税法上の効果が影響を受けるものでもない。
 (5)以上によれば、本件各土地の時価の評価を相当地代通達8に従って行うことは、合理的な評価方法による適正な評価であるというべきである。

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  キーワード 「貸宅地」⇒35

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登録日
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週刊「T&A master」276号(2008.9.29「今週のニュース」より転載)

(分類:税務 2008.11.19 ビジネスメールUP! 1197号より )

 

 
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