アパマンショップHDの代表訴訟、東京高裁では取締役らに賠償命じる
子会社の完全子会社化の際の株式買取価格を巡り1億2千万円余
東京高裁第12民事部(柳田幸三裁判長)は平成20年10月29日、アパマンショップホールディングス(以下「ASH」という)が平成18年に行った非上場子会社アパマンショップマンスリー(以下「ASM」という)の完全子会社化の際の株式交換において、ASM株式の株式買取価格が不当に高額であり損害を被ったとするASHの個人株主ら3人がASH取締役ら3人に対し提起した株主代表訴訟の控訴審で、株主らの請求を棄却した東京地裁判決を変更し、取締役らに連帯して1億2,640万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
東京地裁判決に至る経緯
東京高裁の事実認定によると、ASHは平成18年、ASMを完全子会社化するため、ASM株式の買取りとともに、これに応じない株主が保有する株式については株式交換により取得することを計画した。ASHは同年5月末日時点でASMの発行済株式総数9,940株の3分の2以上にあたる6,630株を保有していたところ、同年6月9日ころ、ASMと連名でASHを除くASM株主に対し、ASHがASM株式を1株5万円で買い取る旨の案内書を送付。これにより、遅くとも6月29日までに、訴外A社が保有する150株以外のASM株式3,160株を1株当たり5万円、総額1億5,800万円で購入した。訴外A社の保有株式については、ASHグループが当時、A社の関連会社との間で紛争状態にあり、ASH側の株式買取りには応じないことが予想されていたという。
ASHの個人株主3人は、上記買取りが不当に高額で会社に損害を生じさせたとし、ASHの取締役2人および元取締役1人に対して連帯して1億3,004万0,320円の支払いを求める株主代表訴訟を提起した。争点は、株式買取価格を5万円と設定したことが不当な価格設定であり、そのような価格設定を行った取締役の行為が取締役の善管注意義務違反を構成するか否か。なお、ASHは本件訴訟に補助参加している。
東京地裁民事第8部(金澤秀樹裁判官)は平成19年12月4日、「ASMの完全子会社化を実施した被告ら取締役の判断に不合理な点は見られ」ず、「ASMを補助参加人の完全子会社化をする過程において、紛争の発生を防止し、その後のグループ全体の取引を円滑に行うため、出資価額による株式の買取りという方法を選択したことに不合理・不適切な点は認められ」ず、さらに、買取総額として予想された1億6,550万円という金額も「本来、社長が単独で決裁しうる範囲のものであって(編注・証拠略)、補助参加人の前記(編注・略)認定の企業規模に照らし、会社の財務状況への影響は大きくないと認められる」などと指摘。
そのうえで、5万円という買取金額の設定が不適切であるとはいえず、「経営会議に諮問し、顧問弁護士の意見を聴取した上で判断を行った被告ら取締役の意思決定の過程に、企業経営者として不合理・不適切な点があったと認定することはできない」とし、株主らの請求を棄却した。株主らは控訴。
控訴審の判断
高裁判決は、株式会社の取締役の経営上の判断が善管注意義務に違反するかどうかについて、まず「その判断の前提となった事実の調査及び検討について特に不注意な点がなく、その意思決定の過程及び内容がその業界における通常の経営者の経営上の判断として特に不合理又は不適切な点がなかったかどうかを基準とし、経営者としての裁量の範囲を逸脱しているかどうかによって決するのが相当である」としたうえで、(1)本件買取り当時のASMの株式の価額、(2)ASHが買取価格を5万円としたことに関して取締役らが任務を怠ったということができるかどうかについて検討。
上記(1)については、算定者の異なる平成18年5月31日付および6月28日付の2つの株式交換比率算定書において、それぞれ@9,709円であり、A6,561円から1万9,090円であったこと、また、取締役の供述などと併せ、「1株当たり1万円であったと認めるのが相当である」と判示した。
(2)については、取締役の判断には一定の裁量が認められるのであり、1株当たり1万円を上回る金額を買取価格として設定したとしても、このことのみで当然に取締役がその任務を怠ったものということはできない旨を述べながら、「その判断が許された裁量の範囲内であるというためには、1株当たり1万円の株式について1株当たり5万円を買取価格として設定したことが、買取りを円滑に進めるために必要であったかどうか、より低い額では買取りが円滑に進まないといえるかどうか、また、買取価格が上記(2)(編注・株式の価額の検討箇所)で認定した価額から乖離する程度と買取りによって会社経営上の期待することができる効果(必要性ないし有益性)とが均衡を失しないかどうか、買取りの手続と同時に計画されていた株式交換の手続における交換比率及びこれを決定する前提となるASMの株式の評価額はいくらであるか等の諸点に関する調査及び検討について特に不注意がなく、その意思決定の過程及び内容がその業界における通常の経営者の経営上の判断として特に不合理又は不適切な点がなかったことが必要である」として、@買取価格設定の経緯、AASHの企業規模、B株式交換時の価格を検討した。
柳田裁判長は、@単に出資価格と同額の設定をしたもので十分な調査や検討がされていないこと、A平成17年9月期の営業利益9億円余、経常利益8億円余、当期純利益4億円余であるところ、買取代金総額は「相当に高い比率」であり「経営上、かなり大きな影響があり得る」こと、B株式交換の交換比率に照らして価格を計算すると8,448円となることなどを指摘したうえで、価格設定における取締役らの判断につき「何ら合理的な根拠又は理由を見出すことはできない」と述べ、「注意義務違反を否定することはできない」と結論付けている。
そのうえで、1株当たり差額相当分4万円、計1億円余を損害とし支払いを命じた。
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(週刊「T&A master」282号(2008.11.10「今週のニュース」より転載)
(分類:会社法 2009.1.14 ビジネスメールUP!
1215号より
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