【未公開 裁決事例紹介】
受取保険金のうち遺族補償金は損金算入されるべき
受取保険金のうち遺族補償金は損金算入されるべき
原処分庁による更正処分等を一部取消し
○審査請求人が傷害保険契約に基づき従業員の死亡により受け取った保険金(仮受金に計上)のうち、被保険者との合意により遺族補償金として支払われる金額(受取保険金の50%相当額)について、審判所が法基通2−2−12に定める債務の確定の要件を満たしていることから、損金の額に算入されるべきとした事例(高裁(法)平19第24号)
基礎事実
請求人は、平成17年4月22日に、保険契約者を請求人、被保険者を役員および従業員全員(パート、アルバイトおよび臨時雇等を含む)とし、死亡保険金受取人を請求人とするグループ傷害保険契約(以下「本件傷害保険契約」という)を、A保険会社と締結した。
本件傷害保険契約の被保険者である従業員のXは、請求人所有の車両を運転して産業廃棄物等を運搬中に発生した交通事故(以下「本件交通事故」という)により死亡した。
請求人は、本件交通事故の発生により、平成19年9月5日に本件傷害保険契約に基づきA保険会社に保険金の支払いを請求し、A保険会社から同月16日に保険金(以下「本件保険金」という)が請求人名義の普通預金口座に振り込まれた。
Xの法定相続人である長男らは、本件交通事故による損害賠償請求に係る調停(以下「本件調停」という)を平成17年12月1日付で申し立てた。また、平成18年4月14日に、請求人を被告として、本件交通事故は請求人が自動車の修繕点検を怠っていたために発生したとして、「労働安全衛生法違反に基づく損害賠償請求事件」を裁判所に提訴した(以下、当該訴訟を「本件訴訟」という)。
原処分庁は、A保険会社から平成19年6月16日に請求人名義の口座に振り込まれた本件保険金は益金の額に算入すべきであるとして、平成19年7月6日付で法人税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をした。
主な争点
遺族補償金が損金の額に算入できるか否か。
主 張
遺族補償金の損金算入の可否に係る請求人、原処分庁の主張(要旨)は、次頁表のとおり。
審判所の判断
(1)遺族補償金の債務の成立
本件同意書は、従業員に対する災害補償規定を兼ねており、雇用者である請求人は従業員に対して保険死亡事故が生じた場合に、死亡保険金額の50%以上の金額を遺族補償として支払う旨を保障したと認められる。したがって、被保険者が死亡した場合には、その遺族は、死亡保険金額の50%以上の金額を雇用者である請求人に対して要求する支払請求権を取得するものと認められ、従業員の遺族から遺族補償金の支払請求があれば、保険契約者は支払うかどうかの選択の余地はないものと認められ、遺族補償金を支払う債務は確定しているとするのが相当である。
(2)給付すべき原因となる事実の発生
Xは本件交通事故により死亡しており、この保険死亡事故の発生により本件傷害保険契約に基づき遺族に対して具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していると認められる。
(3)金額の合理的な算定
本件同意書があり、本件交通事故に伴う死亡保険金の請求に際し、死亡した被保険者Xの法定相続人であるYの住所氏名等を親権者であるZが署名押印していることから、被保険者Xの遺族としては、死亡保険金が請求人に支払われた場合に本件同意書に基づき、当該死亡保険金の50%以上の遺族補償金を請求する権利を有することになったものと推認される。
本件事業年度において、請求人は本件保険金額から支払うべき遺族補償金を提示するに至っていない状況にあり、支払うための積極的な行為も行っていない。しかしながら、請求人は、○○の関係者から多額の金銭を要求するような発言があり紛争になることが予想されたため、弁護士に労災交渉を依頼しており、請求人は、当該労災交渉を開始したことに伴い、死亡保険金から支払うべき遺族補償金の総額が確定しないことから、その原資である死亡保険金自体を仮受金として経理し、遺族補償金も費用として計上していなかったものであり、そのような状況にあったとしても、遺族の有する支払請求権が否定されるものではない。そうすると、当該死亡保険金は益金の額に算入すべきであるとともに、少なくともその死亡保険金からの支払義務を負う遺族補償金の最低限である死亡保険金の50%相当額は費用として見積計上できると解するのが相当である。
上記から、本件遺族補償金は、本件従業員が就業中の事故により死亡した本件傷害保険契約に係る保険金が支払われることが確定した段階で基本通達2−2−12に定める要件のすべてに該当するのであるから、本件補償金は損金の額に算入されるべきである。
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キーワード 「死亡保険金」⇒58件
(週刊「T&A master」282号(2008.11.10「未公開 裁決事例紹介」より転載)
(分類:その他 2009.1.16 ビジネスメールUP!
1216号より
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