連基通8−1−23(1)「売買実例」に第三者割当ては含まれず
法人税等相当額を控除すべきとの主張も退ける
東京地方裁判所民事第2部(岩井伸晃裁判長)は平成21年9月17日、株式の譲受(譲渡)価額が時価に比べて低額であるか否かが争われた事案で、上場有価証券等以外の株式価額の評価を定めた連基通8−1−23(1)・法基通9−1−13(1)の「売買実例」に第三者割当ては含まれず、また、法法61条の12第1項に基づき連結子法人が課税されることをもって当該法人の株価の評価額から評基通185に基づき法人税額等相当額を控除することに根拠はないなどと判示し、税務署による更正処分を適法とする判決を言い渡した。原告側は控訴せず、判決が確定した。
株式売買に係る当事者の関係
株式の譲受価額(評価額)が争われたのは、Xホールディングス(以下「XHD」という)がXファイナンスから譲り受けたXベンチャーキャピタル(以下「XVC」という)株式について。XHDおよび同社による完全支配関係があるすべての内国法人12社は、国税庁長官から平成15年5月29日に連結納税の承認を受けている(平成15年4月1日以後の期間について効力が生じた)。
XVCは平成15年5月1日、投資組合運営事業に関する営業を承継するため、Xファイナンスからの分割により設立され、同日、XVCの発行済株式の全部(2,000株)をXファイナンスが取得した。XVCは、X投資事業有限責任組合に係る持分等の複数の投資事業有限責任組合の組合持分等を保有しており、X投資事業有限責任組合は、バイオベンチャー企業であるY社発行の株式を保有していた。
時価との差額を受贈益・寄附金と認定
XHDは平成15年2月1日、Xファイナンスの発行済株式の全部を取得するとともに、Y社の公募増資等の価額が1株当たり100万円と決定された日の前日、平成15年11月25日にXファイナンスからXVC発行に係るXVC株式2,000株を6億7,500万円(1株当たり33万7,500円)で購入。XVCは、XHDの連結子法人となった。
税務署は、Y社株式の価額は1株当たり100万円であり、XVCの純資産価額(売買時の株式の時価)は52億738万321円であるとして、譲受(譲渡)価額と時価との差額45億3,238万321円について、XHDに受贈益課税、Xファイナンスに寄附金課税(各更正処分)を行った。
売買とは法的性質を本質的に異にする
主な争点は、XVC株式の評価額の適否(Y社株式の評価額、XVC株式の評価における法人税額等相当額の控除の要否)。
XVC株式売買当時の純資産価額を算定する際、Y社株式の評価について上場有価証券等以外の株式価額の評価を定めた連基通8−1−23(1)(2)または法基通9−1−13(1)(2)に基づき評価するところ、原告は、Y社株式についてはXVC株式売買の5か月前に1株当たり30万円で売却されており(第三者割当て)、これは連基通8−1−23(1)・法基通9−1−13(1)の「売買実例」に該当すると主張した。これに対して、判決は、第三者割当て(新株発行)と売買とは全く異なる法的規律が定められており(旧商法における特別決議による承認、新株発行の差止請求等)、株式の発生および権利移転の仕組み等の観点からも第三者割当てと売買とは私法上の法的性質を本質的に異にするものであると指摘。
また、法人税法上も有価証券の売買を行った場合の規定(法法61条の2第1項)と第三者割当てを行った場合の規定(法法22条2項・5項)等で全く異なる規律に服するものであることから、連基通8−1−23(1)・法基通9−1−13(1)の「売買実例」には第三者割当ては含まれないと判示し、連基通8−1−23(2)・法基通9−1−13(2)を根拠として、XVC株式売買当時のY社株式の価額(時価)は、1株当たり100万円と評価するのが相当とした。
不確実な数額考慮は合理的意思に合致せず
法人税額等相当額の控除については、原告が、@XVCはXVC株式売買時点においてXHDの連結子法人となることが確実であり、時価評価資産の評価差額に対する法人税の納税義務が発生することが確定的であるので、XVC株式の価額評価では資産の評価差額に対する法人税額等相当額を控除すべきである、A法人税等の発生が確実である状況では、評価差額に対する法人税額等相当額を控除した額を1株当たりの純資産価額と解するのが通常の取引における当事者の合理的意思に合致すると主張。
判決では、上記@について、法法61条の12第1項と評基通185・186−2は、制度の趣旨および内容(計算過程を含む)が全く異質なものであることはもとより、評価の時点・評価対象資産など評価方法も共通する点はほとんど皆無であるといわざるを得ず、法法61条の12第1項に基づき連結子法人であるXVCが課税されることをもって、XVCの株価の評価額から評基通185に基づき法人税額等相当額を控除することの根拠と解し得るものではないと判示した。
Aに対しては、株式売買の時点で、XVCが連結加入評価損益に対する法人税等の納税義務を負うことが確実であったとはいえず、仮に納税義務を負うことが予測できたとしても、算定が不能の不確実な数額を考慮することは、通常の取引当事者の合理的意思に合致するものとはいえないと指摘。1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引される価額を算定するにあたって連結加入評価損益に対する法人税額等を控除すべきとの主張は理由がないとした。
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(週刊「T&A master」331号(2009.11.23「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2010.2.8 ビジネスメールUP!
1364号より
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