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最高裁が元拓銀頭取らの特別背任で上告棄却、実刑判決の原審を是認
実質破綻企業に対する追加融資を適法とする場合の初の判断示す

 最高裁判所第三小法廷(那須弘平裁判長)は平成21年11月9日、平成9年11月に都市銀行初の経営破綻として注目された旧北海道拓殖銀行の巨額不正融資事件を巡り商法違反(特別背任)の罪に問われた同行元頭取2名、融資先会社元社長に対する上告審で、元頭取2名に懲役2年6月、元社長に懲役1年6月の実刑判決を言い渡した控訴審(原審)の判断を正当であるとし、元頭取らの上告を棄却する決定を行った。

第一審は無罪、控訴審で逆転・実刑判決
 被告人は、拓銀における平成元年4月1日〜6年6月28日の元頭取A、その後任たる同月29日〜9年11月20日の元頭取B、拓銀の融資先のリゾート開発会社・ソフィアグループの元社長Cの3名である。
 Aは平成5年7月の経営会議で融資先グループが実質倒産状態に陥っていることを知りながら、6年4月〜6月、前後10回にわたり融資先グループ2社に対して計8億4,000万円、また、Bはこの路線を継承して6年7月〜9年10月、前後88回にわたりグループ3社に対し計77億3,150万円の赤字補填資金など本件各融資を決定し、実質無担保でこれらを実行したとされる。
 第一審・札幌地判平成15年2月27日は、A・Bの融資が頭取の任務に違背するものであることを認めつつ、自己または第三者図利目的があったと認めるには合理的な疑いが残る旨を指摘。両人に特別背任罪は成立せず、Cは「身分なき共犯」として関わったもので両人に特別背任罪が成立しない以上Cについても成立しないとし、3名全員に無罪を言い渡した。
 検察側の控訴を受け、札幌高裁刑事部(長島孝太郎裁判長)は平成18年8月31日、任務違背、自己および第三者図利目的、共謀のいずれもが存在したとし、3名全員に特別背任罪の共謀共同正犯が成立すると認定。第一審判決を破棄したうえ、上記の実刑判決を言い渡していたものである。

実質破綻企業への追加融資に係る要件
 A・Bが、両人に求められていた総合的判断が極めて高度な政策的・予測的・専門的な経営判断事項に属し、広い裁量を認めるべきものであることなどを挙げ、それが著しく不当な判断でない限り尊重されるべきであって任務違背はなかったと主張したのに対し、判決はまず、銀行取締役の注意義務の程度について、一般の株式会社取締役の場合に比べて高い水準であるとし、経営判断の原則が適用される余地はそれだけ限定的なものにとどまると述べた。
 融資業務の実施にあたっては、銀行取締役が、債権保全のための各種調査を行い、その安全性を確認して貸付けを決定し、原則として確実な担保を徴求するなど相当の措置をとるべき義務を有すると指摘。
 続けて那須裁判長は、「実質倒産状態にある企業に対する支援策として無担保又は不十分な担保で追加融資をして再建又は整理を目指すこと等があり得るにしても、これが適法とされるためには客観性を持った再建・整理計画とこれを確実に実行する銀行本体の強い経営体質を必要とするなど、その融資判断が合理性のあるものでなければならず、手続的には銀行内部での明確な計画の策定とその正式な承認を欠かせない」と述べて、実質倒産状態にある企業への追加融資が許容される要件を明らかにした。
 しかしながら本件については、@融資先グループの経営状況や貸付金回収のほぼ唯一の方途と考えられていた事業の実現可能性から、既存の貸付金の返済は期待できないばかりか、追加融資は新たな損害を発生させる危険性があったこと、AA・Bはこの状況を認識しつつ抜本的方策を講じないまま実質無担保の本件各融資を決定・実行しており、「客観性を持った再建・整理計画」があったものでもなく、損失極小化目的が明確な形で存在したともいえず、その融資判断は著しく合理性を欠き、銀行取締役として求められる債権保全に係る義務に違反したこと、B両人には同義務違反の認識もあったことから、取締役としての任務違背があったとし、5名の裁判官が全員一致で上告棄却の決定を行ったものである(図利目的については判断していない)。
 なお、倒産法分野で著名な弁護士出身の田原睦夫裁判官は補足意見において、破綻企業等への融資の可否につき状況を場合分けするなどしながらより仔細に分析、「経営判断の原則の適用の可否を論じるまでもなく、……任務に違背していた」と指摘した。

 

 

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  キーワード 「経営破綻」⇒21

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登録日
プレミアム会計 最高裁、旧日債銀の粉飾決算事件で有罪の原判決を破棄、高裁に差戻し 2009年 12月 14日
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2008年 07月 18日

(以上、最新順)  

週刊「T&A master」331号(2009.11.23「今週のニュース」より転載)

(分類:会社法 2010.2.10 ビジネスメールUP! 1365号より )

 

 
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