著作権等について会社概要質問・お問い合せサイトマップ

 

同意権の付与で十分との回答が上回る
インセンティブのねじれは解消すべきか?

 監査役等に監査報酬の決定権の付与は不要であると回答する会社が421社(45.1%)と、付与すべきであると回答した413社(44.2%)を上回るという注目すべきアンケート結果が日本公認会計士協会の調査で明らかとなった。日本公認会計士協会は、以前から会計監査人の選任議案および監査報酬の決定権を監査役等に付与すべきとの立場で会社法改正に向けた取組みを行っているが、今回の調査結果は冷や水を浴びせる結果となった。
 ただし、その一方、民主党が制定を目指すとしている公開会社法では、いわゆる“インセンティブのねじれ”を解消するとしている。公開会社法の改正項目として、会計監査人の選任議案・監査報酬決定の権限を監査役会等に移行する施策を盛り込むなど、追い風も吹いている。監査役等に監査報酬等の決定権を付与することにより本当に会計監査人の独立性は担保されるのか、今後の議論が待たれるところだ。

会計監査人の外観的な独立性だけでは監査役制度は機能せず
 いわゆる“インセンティブのねじれ”とは、会計監査の対象である被監査会社の経営者が、会計監査人の選任議案の決定権限を有し、監査報酬を決定するという現行制度の問題点のこと。平成18年5月1日施行の会社法では、会計監査人の選任議案および監査報酬の決定について、監査役等に同意権が付与されている(会社法344条、399条)。しかし、決定するのはあくまでも取締役だ(図表1参照)。

会計監査人の独立性が担保できないと主張
 このため、日本公認会計士協会は、現行制度のままでは会計監査人の独立性が担保できないとして、増田会長が就任して以来、一貫して会計監査人の選任議案および監査報酬の決定権を監査役等に付与すべきとする取組みを行っている。平成21年10月13日には、千葉法務大臣にインセンティブのねじれの解消など、会社法改正に関する要望書を提出している。
 日本公認会計士協会では、法務省からの要望により、会計監査人の選任議案・報酬の決定への監査役等の関与に関するアンケート調査を行い、その結果を11月30日に公表している(調査対象は上場会社監査事務所部会に登録されている180監査事務所および上場会社である会社法監査適用会社934社)。
 調査結果によれば、監査役等に監査報酬の決定権を付与した場合、「蓋然性がある程度は高まると考えられるので、決定権を付与すべきである」と回答したのは385社(41.2%)と最も多いが、「蓋然性はある程度は高まると考えられるが、決定権の付与までは不要である」の265社(28.4%)と「蓋然性はほとんど高まることはないと考えられるので、決定権の付与は不要である」の156社(16.7%)を足した数では下回った(図表2参照)。

選任議案の決定権付与は不要との回答が46.3%
 また、監査役等に会計監査人の選任・解任議案の決定権を付与した場合については、「ある程度は向上すると考えられるので、決定権を付与すべきである」との回答は355社(38.0%)と最も多かったが、「ある程度は向上すると考えられるが、決定権の付与までは不要である」の287社(30.7%)、「ほとんど向上することはないと考えられるので、決定権の付与は不要である」の146社(15.6%)を足した数では下回った(図表3参照)。
 ただし、監査報酬の決定権の付与に関しても選任・解任議案の決定権の付与に関しても、数字的にはほぼ拮抗しているといえる。
監査役本人も賛成が3割
 当の監査役等についても、監査報酬の決定権の付与などに前向きではない。日本監査役協会が平成21年10月21日に公表した「会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定に関する監査役等の関与に関するインターネット・アンケート集計結果」でも、監査報酬の決定権の付与については、42.9%(1,085社)が望ましいとはいえないと回答。望ましいとする31.4%(794社)を上回っている。同様に会計監査人の選任議案の決定権についても、望ましいとはいえないとの回答が43.6%(1,102社)となり、望ましいと回答した30.1%(762社)を上回った(本誌328号参照)。
 今回の調査結果からは、外観的独立性の確保だけでは会計監査人の独立性は担保できない、違う見方をすれば、わが国の監査役制度が十分に機能していないのではないかとの不信感が伺われる。
会計士協会は監査役の専門性の強化が必要
 日本公認会計士協会では、監査役の経歴として財務や会計に関する知見を有する者の割合が少なく(今回の調査結果では全体の26.9%)、また、補助使用人がいない会社も多い現状を踏まえ、監査役等の専門性の強化および補助使用人の積極的な設置が必要としている。
 今後は、専門性の強化等を通じ、監査役自らが経営陣(取締役会)からの実質的な独立性をどのように担保していくかが問われることになりそうだ。

  ※ 記事の無断転用や無断使用はお断りいたします
  ⇒著作権等について

 

  T&Amaster 読者限定サイト 検索結果(注:閲覧には読者IDとパスワードが必要になります)ID・パスの取得方法
  キーワード 「インセンティブのねじれ」⇒20

分類

タイトル
登録日
解説記事 公開会社法、民主党における検討の到達点に迫る 2010年 01月 25日
解説記事 議決権行使等を巡る諸課題と次期定時株主総会に向けての検討 第2回 コーポレート・ガバナンス関係 2009年 12月 07日
プレミアム会社法 インセンティブのねじれの解消で会社法改正の要望を法務大臣に提出

2009年 10月 19日

プレミアム会社法 金融審の市場国際化SG、報告案をおおむね了承 2009年 06月 22日
プレミアム会社法 会計士協会がインセンティブのねじれの解消を法務大臣に要望

2009年 06月 08日

プレミアム会計 個別財務諸表の開示の簡素化などを金融担当大臣に要望

2009年 06月 04日

(以上、最新順)

週刊「T&A master」334号(2009.12.14「SCOPE」より転載)

(分類:会社法 2010.2.26 ビジネスメールUP! 1372号より )

 

 
過去のニュース、コラムを検索できます
 Copyright(C) LOTUS21.Co.,Ltd. 2000-2023. All rights reserved.
 全ての記事、画像、コンテンツに係る著作権は株式会社ロータス21に帰属します。無断転載、無断引用を禁じます。
 このホームページに関するご意見、お問合せはinfo@lotus21.co.jp まで