未公開 裁決事例紹介
相続人が契約解除も、相続財産は売買残代金請求権
考慮すべき特段の事情とはいえない
○被相続人が売主として売買契約を締結した土地建物について、相続開始後に相続人が当該売買契約を解除した場合の相続財産は当該売買契約に係る売買残代金請求権であるとした事例(広裁(諸)平21第3号)
基礎事実
被相続人の相続に係る共同相続人は、請求人ら4名。被相続人は、Xとの間で、自己の所有する土地建物を約1.7億円で譲渡する旨の契約を締結し、手付金を受け取った。相続の開始後、請求人らは、売買契約を解除することとし、その旨Xに通知した後、手付金の倍額をX名義の普通預金口座に振り込み、売買契約は解除された。請求人らは、相続税の申告書において、財産評価基本通達に基づき土地建物を約1.3億円と評価し、手付金を債務として計上した。
争点および主張
争点は、相続開始時に被相続人が売主として売買契約を締結していた土地建物について、相続開始後に相続人の意思により当該売買契約が約定解除された場合、相続税の課税対象とすべき財産は、土地建物であるか、売買残代金請求権であるか。
当事者の主張は、次頁表のとおり。
審判所の判断
(1)法令解釈
相続税の納税義務は、相続による財産を取得した時、すなわち、相続開始の時に成立するものと解される。そして、相続により取得した財産の価額の合計額をもって相続税の課税価格とすることとされており、相続により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価によることとされていることから、相続開始後の当該財産に生じた事情は制度の上の措置がなされている場合など、これを考慮すべき特段の事情と認められない限り考慮されないこととなる。また、相続開始時に売買契約が締結されている土地等について、相続税の課税対象となる財産を判定するにあたっては、相続開始の時において、売買残代金請求権が確定的に被相続人に帰属していると認められるか否かの観点から判定するのが相当と解される。
(2)判 断
本件売買契約の各当事者は、売買契約の実現に向け、売買契約書に定められた各条項を誠実に履行し、相続の開始時において、土地建物の引渡予定日および売買残代金の決済予定日も決定していたことが認められる。このように、相続の開始時において売買契約が履行されることが確実であると認められるような状況下にあっては、土地建物の所有権が被相続人に残っているとしても、もはやその実質は売買契約に係る売買残代金請求権を確保するための機能を有するにすぎないものといえ、請求人らが相続した土地建物は、独立して相続税の課税財産を構成しないというべきである。
そして、請求人らが相続の開始後に行った売買契約の解除は、被相続人から売買契約に係る契約上の地位を承継した請求人らの意思によるものであり、当該解除をもって、相続開始時において売買残代金請求権が確定的に被相続人に帰属していると認めることが不相当であるというべき特段の事情ということはできないから、相続の開始時において、売買残代金請求権は確定的に被相続人に帰属していたと認めるのが相当である。以上からすれば、本件相続に係る相続税の課税対象とすべき財産は、本件売買契約に係る売買残代金請求権である。
請求人らが行った売買契約の解除の効果として、売買契約の当事者間(請求人らとX)において契約の効力が遡及的に消滅すると解したとしても、上記のとおり、相続税の課税上、売買契約の解除をもって、相続開始後に生じた考慮すべき特段の事情ということはできないのであるから、売買契約の解除は、相続税の課税対象となる財産が売買契約に係る売買残代金請求権であるということに影響を及ぼすものではない。
また、本件のように、相続開始時において、売買契約が履行されることが確実であるという状況が認められる場合には、相続人の事情に基づき売買契約に係る約定解除権の行使により売買契約が解除されても、相続開始時における相続税の課税対象となる財産が売買契約に係る売買残代金請求権であるという当初の申告(課税)自体が実体的に不当となるものとはいえない。そうすると、通則法23条2項の規定の趣旨に照らしても、請求人らが本件売買契約を約定解除したことについて、同項3号に規定する「やむを得ない理由」があるとはいえない。
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キーワード 「契約 解除 相続」⇒92件
(週刊「T&A master」343号(2010.2.22「未公開 裁決事例紹介」より転載)
(分類:税務 2010.4.19 ビジネスメールUP!
1393号より
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