遺産分割事件に係る弁護士報酬は「取得費」に当たらず
取得費と譲渡費用は個別の概念
東京地裁民事第38部(杉原則彦裁判長)は4月16日、遺産分割事件で支払った弁護士報酬が、当該審判により取得した土地の譲渡所得の計算上、「取得費」に当たるか否かが争われた事案で、取得費と譲渡費用は個別の概念であり、譲渡費用該当性の判断基準を直ちに取得費該当性の判断基準とすべきとはいえないと判示し、原告の請求を棄却する判決を言い渡した(平成21年(行ウ)第336号)。
客観的に見て必要であったかどうか
原告が、弁護士報酬は「取得費」に当たるとした主張は、以下のとおり。
(1)最判平成17年2月1日は、ゴルフ会員権を贈与により取得した際に受贈者が支出した名義書換手数料を取得費と認めた。そして、最判平成18年4月20日は、所法33条3項にいう譲渡費用に当たるかどうかは、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきとしている。最判平成18年4月20日は、直接には譲渡費用を対象にしているが、具体的に実現した所得が課税対象でなければならない以上、取得費も、抽象的な「通常」のものだけではなく、現実に行われた資産の取得を考慮して、客観的に見てその資産を取得するために当該費用が必要であったかどうかを判断しなければならないのは当然であって、譲渡費用と取得費の理論的根拠が異なってはならない。
(2)本件相続開始から遺産分割手続終結まで37年6か月もの年月を要しており、遺産分割調停および審判事件において弁護士への依頼が不可避だったのであるから、本件弁護士報酬は、客観的に見て明らかに本件土地を取得するために必要だった費用と認められ、取得費に当たるというべきである。
所法33条3項で個別に挙げられている
杉原裁判長は、ゴルフ会員権の名義書換手数料が、これを支払って名義書換えをしなければ、そのゴルフ会員権に基づく権利行使ができないので、ゴルフ会員権の取得のための付随費用ということができるのに対し、遺産分割調停および審判事件は、必ず代理人として弁護士に委任しなければならない手続ではないから、遺産分割事件の弁護士報酬が当該資産を取得するための付随費用ということはできないと指摘。
また、取得費の判断基準について、所法33条3項において取得費と譲渡費用は、共に譲渡所得の計算にあたって控除されるべきものではあるが、同項において取得費と譲渡費用が個別に挙げられていることからも明らかなように、両者は個別の概念であって、譲渡費用該当性の判断基準を直ちに取得費該当性の判断基準とすべきであるということはできないと判示した。
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(週刊「T&A master」356号(2010.5.31「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2010.7.12 ビジネスメールUP!
1426号より
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