東京国税局が事前照会
所在不明株主の株式を売却した場合の課税関係は?
所在不明株主の株式を売却するケースが見受けられる。最近でも、図書印刷、森永製菓、三菱重工業、エーザイなどが会社法197条に基づき、所在不明株主の株式を売却する旨を公表している。所在不明株主の株式を売却することにより、その株主の権利は失われることになるが、売却代金については会社に請求することができる。その際の税務上の取扱いはどうなるのか。東京国税局の事前照会をもとに課税関係を明らかにする。
市場売却等の代金は預り金に計上、消滅時効で雑収入に
所在不明株主とは、株主名簿に記載または記録された住所等に通知または催告して5年以上継続して到達せず、かつ、剰余金の配当を継続して5年間受領していない株主のこと。名義書換や住所変更等をしなかったケースなどで発生する。
所在不明株主の株式については、取締役会の決議を行い、株式売却に関する公告等を行ったうえで、会社が@競売(会社法197条1項)、A市場売却(同条2項)、B買い取る(同条3項)ことができる(図参照)。なお、市場価格のない株式についても、裁判所の許可を得ることにより競売以外の方法によって、これを売却することができる。
その後、所在不明株主については、株主の権利は消滅するものの、売却代金については会社から受け取ることができる。
東京国税局が事前照会に回答
その際の個人および法人の所在不明株主、会社側の税務上の取扱いについては、東京国税局が平成21年2月20日付および平成21年6月16日付で事前照会に対する回答を行っている。
競売の場合は?
競売の場合については、個人の所在不明株主であれば、@株式等に係る譲渡所得等となる、A株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期は、株式の引渡しがあった日である競売の日となる。
また、法人の所在不明株主の株式の競売に係る譲渡利益額または譲渡損失額については、当該株式が競売された日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額または損金の額に算入することになる。
市場売却の場合は?
市場売却の場合は、個人の所在不明株主であれば、@株式等に係る譲渡所得等となる、A株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期は、株式の引渡しがあった日である市場売却の日となる。
法人の所在不明株主の株式の市場売却に係る譲渡利益額または譲渡損失額については、当該株主の株式が市場売却された日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額または損金の額に算入することになる。
自社株式買取りの場合は?
個人の所在不明株主の場合、@会社による自社株式の買取りによる所得区分については、交付を受けた金銭の額および金銭以外の資産の価額の合計額が当該会社の法人税法2条16号に規定する資本金等の額等のうちその交付の基因となった当該会社の株式に対応する部分の金額を超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、配当所得とみなされ(所得税法25条1項4号)、その余の交付を受けた金銭の額および金銭以外の資産の価額の合計額は、株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額とみなされる(措置法37条の10第3項4号)、A株式等に係る譲渡所得等の総収入金額の収入すべき時期およびみなし配当所得の収入金額の収入すべき時期は、株式の買取りがあった日である当該株式会社による自社の株式の取得の日となる。
法人の所在不明株主の場合、@会社による自社の株式の買取りにより交付を受けた金銭の額および金銭以外の資産の価額の合計額が当該会社の資本金等の額等のうちその交付の基因となった当該会社の株式に対応する部分の金額を超える部分の金額に係る金銭その他の資産は配当とみなされる(法人税法23条1項1号)、A会社による自社の株式の買取りによる当該株式の譲渡に係る利益または損失の額の計上時期およびみなし配当の収益の計上時期は、株式の買取りがあった日である当該株式会社による自社の株式の取得の日となる。
なお、会社が所在不明株主に対しその買取りに係る代金を支払う際には、配当所得とみなされる金額について所得税を徴収し、その徴収した日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付する必要がある。また、その支払いの確定した日である株式の買取りの日から1年を経過した日までにその支払いがない場合には、その1年を経過した日においてその支払いがあったものとみなして、上記の配当について所得税の源泉徴収を行うことになる。
会社側の処理はどうなる?
所在不明株主の株式を売却した会社の税務上の取扱いは以下のとおりとなる。
会社が競売または市場売却を行った場合については、その競売等の代金の受入れの際に、その代金を預り金(負債)に計上する。
その後、所在不明株主に対して当該代金を交付した場合には当該預り金を減少させ、一方、債権等の消滅時効(10年)によって当該代金が当該会社に帰属した場合には、当該帰属した日の属する事業年度の雑収入に計上することになる。
また、自社株式の買取りを行った場合には、当該会社の資本金等の額および利益積立金額を減少させる処理を行うと同時に買取代金を未払金に計上する。
その後、所在不明株主に対して当該代金を交付した場合には当該未払金を減少させ、一方、債権等の消滅時効によって当該代金が当該会社に帰属した場合には、当該帰属した日の属する事業年度の雑収入に計上することになる。
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(週刊「T&A master」378号(2010.11.15「SCOPE」より転載)
(分類:税務 2011.1.7 ビジネスメールUP!
1493号より
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