審理終結までの間に個別株主通知が必要
最高裁が株券電子化後の個別株主通知問題で初の判断
最高裁判所第三小法廷(田原睦夫裁判長)は12月7日、振替株式についての会社法172条1項に基づく価格の決定を求めた事案に対して、裁判所における価格決定申立事件の審理終結までの間に個別株主通知がされることが必要との初めての判断を示した(平成22(許)9)。本件は、平成21年1月5日から適用されることになった株券電子化の実施後に生じた事案であり、東京高等裁判所での判断が分かれていたものである。最高裁の判断により、実務上の一定の指針が示されたことになる。
株券電子化実施後の問題、東京高裁で判断が分かれる
社債、株式等の振替に関する法律(以下「社債等振替法」という)154条では、少数株主権等の行使の特例については、会社法130条1項を適用せず、個別株主通知がされた後、4週間以内(社債等振替法施行令40条)でなければ、株主であることを会社に対抗することができないこととされている。しかし、株券電子化会社においては、少数株主権等を行使する株主が所定の株式を保有しているかどうかを株主名簿により確認することはできない。このため、株主は証券会社を通じて発行会社に株式数を通知させることとしたものが個別株主通知である。
今回の事案は、全部取得条項付種類株式の取得決議に伴い反対株主が価格決定申立てを行う場合において、個別株主通知が必要か否か、また、通知の時期が争われたものである。具体的には、東京証券取引所のマザーズに上場していたメディアエクスチェンジがフリービット(東証マザーズ上場)との間で資本業務提携による完全子会社化に合意。その後、株主総会において全部取得条項付種類株式の全部を取得する決議を行い、これに反対する株主が会社法172条1項1号に基づく価格の決定の申立てを行ったものである。
なお、東京高裁では、本件以外にも、同社の全部取得条項付種類株式の取得決議に伴う反対株主の価格決定申立てが行われており、それぞれの部で判断が分かれていた(表参照)。

東京高裁の判断は個別株主通知を要せず
本件の原審・東京高決平成22年2月18日(平成21(ラ)2163)では、@会社法172条1項所定の価格決定申立権の行使に個別株主通知がされることを要すると解すると、振替株式を発行する会社である株券電子化会社の株主に対し、通常の会社の場合よりも著しい負担を課すことになって妥当ではない、A4週間(社債等振替法施行令40条)の権利行使期間が認められている個別株主通知の制度を20日間の申立期間しか認められていない価格決定申立権に適用することは制度設計上の無理がある、B価格決定申立権は、会社法124条1項に規定する権利に関する規定を類推適用すべき権利であって、社債等振替法154条1項等にいう「少数株主権等」に該当しないというべきであるから、その行使に際しては個別株主通知がされることを要しないとの判断を示していた。
価格決定申立権は少数株主権等に該当
最高裁は、@会社法172条1項所定の価格決定申立権は、その申立期間内である限り、各株主ごとの個別的な権利行使が予定されているものであって、同法124条1項に規定する権利とは著しく異なるものであるから、価格決定申立権が社債等振替法154条1項等所定の「少数株主権等」に該当することは明らかである、A社債等振替法154条が、会社法130条1項の規定を適用せず、個別株主通知がされることを要するとした趣旨は、株主名簿の名義書換は総株主通知を受けた場合に行われるものの、総株主通知は原則として年2回しか行われないため、総株主通知がされる間に振替株式を取得した者が、株主名簿の記載または記録にかかわらず、個別株主通知により少数株主権等を行使することを可能にすることにある、B総株主通知をもって個別株主通知に代替させ得ることを理由として、価格決定申立権が会社法124条1項に規定する権利に関する規定を類推適用すべき権利であると解する余地はない、C少数株主権等それ自体の権利行使期間が社債等振替法施行令40条の定める期間より短いからといって、個別株主通知を不要と解することはできない、D個別株主通知は会社への対抗要件であると解され、会社が株式価格決定申立事件の審理において申立人が株主であることを争った場合、その審理終結までの間に個別株主通知がされることを要すると判断。東京高裁の決定を破棄している。
【関係条文】
会社法124条(基準日)
1 株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。
会社法130条(株式の譲渡の対抗要件)
1 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
会社法172条(裁判所に対する価格の決定の申立て)
1 前条第一項各号に掲げる事項を定めた場合には、次に掲げる株主は、同項の株主総会の日から二十日以内に、裁判所に対し、株式会社による全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てをすることができる。
一 当該株主総会に先立って当該株式会社による全部取得条項付種類株式の取得に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該取得に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
社債等振替法154条(少数株主権等の行使に関する会社法の特例)
1 振替株式についての少数株主権等の行使については、会社法第百三十条第一項の規定は、適用しない。
2 前項の振替株式についての少数株主権等は、次項の通知がされた後政令で定める期間が経過する日までの間でなければ、行使することができない。 |
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T&Amaster
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(週刊「T&A master」383号(2010.12.20「SCOPE」より転載)
(分類:会社法 2011.2.16 ビジネスメールUP!
1508号より
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