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裁判所、節税の比較検討の機会を失わせた
相続時精算課税の説明せず、税賠訴訟で税理士側一部敗訴

 贈与税の納税申告業務の依頼を受けた顧問税理士が、相続時精算課税について適切な説明をせず、暦年課税を選択すべきとの意見を述べたために多額の贈与税を納付しなければならなかったとして、その顧問税理士に対し損害賠償請求がなされた事件があった。
 裁判所は、顧問税理士が相続時精算課税を採った場合における相続税額の有無および税額の説明義務を怠ったために、原告は暦年課税と相続時精算課税のいずれを採るのが全体として有利かどうかを比較する機会を失ったと指摘。顧問契約上の説明義務違反としての債務不履行に基づく損害賠償を命じる判決を言い渡した。なお、税理士側は控訴していない模様。

他の相続人とのトラブルを避けるため暦年課税を勧める
 本事案における贈与者は、原告の祖父であり、原告に土地を贈与した2年後に死亡している。原告と税理士顧問契約を締結している被告は、本件贈与について暦年課税を勧め、その理由として、相続時精算課税では他の相続人に贈与の事実が知られてしまい、他の相続人との間でトラブルが生じ、原告に不利になると説明している。
 なお、原告は、他の相続人から相続を巡る訴訟を提起されたことがあり、本件贈与の事実を他の相続人に知られて相続を巡る新たな紛争が生じないようにしたいと希望していた。また、当時、原告は贈与者の財産の全体像を把握しておらず、被告も贈与者の全財産を把握していなかった。
 原告は、暦年課税を勧める被告の上記意見に従って、被告に対して本件贈与に係る申告業務を依頼。被告は、原告を代理して、暦年課税による贈与税の申告を行った。その後、原告は、第三者から相続時精算課税を利用しなかったことで無駄に税金を払ったのではないかと指摘された。

裁判所、登記簿閲覧で贈与の事実は判明すると指摘
 裁判所は、まず被告の説明義務について、税理士顧問契約上、顧客である原告に対し、法律の範囲内でできる限り節税に資する納税方式について説明すべき義務を負っていたと指摘。本事案において、被告には一定の想定された贈与者の財産状況の下での暦年課税と相続時精算課税のいずれが節税として有利かを原告が比較検討できるようにする義務があり、その説明を怠った被告は、顧問契約上の説明義務に反するから、債務不履行責任を負うとした(次頁参照)。

【表】裁判所の判断
(1)被告は、税理士顧問契約上、顧客である原告に対し、法律の範囲内でできる限り節税に資する納税方式について説明すべき義務を負っていた。

(2)贈与者(原告の祖父)の財産状況の全体像を把握できるような情報や資料を受け取っておらず、これを把握することができない状況の下では、被告は、相続時精算課税を採った場合に、贈与者の具体的な財産状況に即して相続税の税額を具体的に算出することは不可能であった。したがって、被告は、納税申告の相談を受けた際に、相続時精算課税を採った場合における相続税の有無および税額を具体的に説明すべき義務を負うものではない。

(3)もっとも、相続時精算課税の場合における相続税の有無および税額は、贈与者の財産状況の全体像を把握できないと具体的に算出することができない旨説明することは可能であるし、必要なことでもある。そのうえで、贈与者の財産状況を大まかに想定して、その想定した財産状況における相続税の有無および税額について説明することも可能である。

(4)これらの状況の下では、被告は原告に対し、上記程度を説明して、一定の想定された贈与者の財産状況の下で暦年課税と相続時精算課税のいずれが節税としてどれだけ有利であるかを原告において比較検討できるようにする義務を負っていたというべきである。

(5)しかるに、被告は、想定される贈与者の財産状況について原告に確認せず、想定される贈与者の財産状況における相続時精算課税での相続税額の有無および税額について説明しなかったのは、相続時精算課税と暦年課税との比較検討をするための説明を怠ったといわざるを得ない。

(6)以上のとおり、被告が原告にした説明は不適切かつ不十分であり、顧問契約上の説明義務に違反するから、債務不履行責任を負う。

 また、贈与に気づいた他の相続人との紛争を生じるおそれが高く、他の相続人に知られないようにすることが税額の算出よりも優先されるべき事情だったとする被告側の主張に対しては、「他の相続人が本件土地の登記簿を閲覧すれば、本件贈与の事実が判明するのであって、これにより他の相続人との新たな紛争が生ずるおそれがあることは暦年課税を採ってもなくなるものではない」と指摘。さらに、あやふやな情報を基に結論を出すと、後にそのことが問題とされるおそれが大きいとの被告側の主張については、「前提条件を定めた上で相続税の有無及び税額について情報を提供する限り、後で問題とされるおそれがあるとは考え難い」とした。
 そのうえで、裁判所は、被告が説明義務を怠ったために、原告は、想定する被相続人となるべき贈与者の財産状況の下で2つの納税方式のいずれが節税としてどれだけ有利であるかどうか、本件贈与の事実を他の相続人に知られないことで相続を巡る新たな紛争を回避できる可能性の程度を総合勘案して、相続時精算課税と暦年課税のいずれを採るのが全体として有利かどうかを検討する機会を失ったことにより無形の損害を受けたと判断した。

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  キーワード 「税理士 敗訴」⇒57

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週刊「T&A master」442号(2012.3.12「SCOPE」より転載)

(分類:税務 2012.5.28 ビジネスメールUP! 1687号より )

 

 
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