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審判所、帰国後の負担は居住者への経済的利益
海外出向者帰国後の留守宅手当で初の裁決事例

 居住者か非居住者かで大きく異なる源泉徴収義務。その取扱いについては、疑義も生じるところだ。このようななか、国税不服審判所は海外出向者へのいわゆる“留守宅手当”に関する裁決事例を公表した。
 争点となったのは、海外出向者の帰国後に、当該会社出向者の国外勤務中の給与に係る外国所得税額を請求人が負担した場合の経済的利益が非居住者期間か居住者期間内のいずれに生じたかについてである。審判所は、海外出向からの帰国後に支払われているため、当該経済的利益は居住者となった以後の所得であると判断している。海外出向者が帰国した後の経済的利益の供与に関して争われた初めての事例である。

帰国後の外国税額の負担は非居住者期間の所得となるか?
 日本企業が支給する給与等については、社員が非居住者であれば国外源泉所得となり、日本では課税されない。一方、居住者となれば全世界所得ということになり、日本で課税が行われることになる。
 今回の事案は、海外出向者が日本に帰国した後、その社員の国外勤務中の給与に係る外国所得税額を請求人である会社が負担した留守宅手当について、非居住者期間内と居住者期間内のいずれに生じた所得かで争われたものである。
 請求人は同社の社員を1年以上の予定で海外の関連法人に出向させたが、留守宅手当の1つとして海外での外国税額を負担していた。この負担分は国外源泉所得として、源泉徴収義務はないが、問題となったのは請求人が海外出向社員の帰国後に海外の課税当局に納付した部分だ。
原処分庁は居住者に該当
 原処分庁は、外国税額は海外出向社員の代わりに納付したものであり、その経済的利益は給与等に該当すると指摘。本件外国税額の納付時(給与等の支給を受ける時)においては、海外出向社員が帰国していることから居住者に該当するため、源泉徴収義務があると判断した。
納税者、外国税額は給与等と一体
 一方、請求人は、本件外国税額は、海外出向社員らが海外で勤務していた期間に支給された手取保証額を基礎にしたグロスアップ計算により納税額が算出されており、外国税額に相当する給与等は、手取保証額である給与等と一体不可分であると主張。海外出向社員の非居住者期間の所得(国外源泉所得)になるとした。
 また、本件外国税額に相当する給与等の収入すべき時期については、@海外勤務規定において、あらかじめ請求人が本件外国税額を負担することが定められている、A本件手取保証額の所得税は、本来の給与支給時において課されるものであるから、海外出向社員が非居住者である期間に生じた所得として取り扱うべきであるとした。

審判所、外国税額納付時に経済的利益の供与
 審判所は、請求人による外国税額の納付により海外出向者の納付すべき外国税額に係る租税債務が消滅しているから、海外出向者らは請求人から経済的利益の供与を受けたものと認められ、給与等に該当すると認められるとした。
納付時は日本の居住者
 そのうえで、海外勤務規定等には、外国税額に関する負担時期の規定はなく、社員らは使用者である請求人が外国税額を現実に納付した時に租税債務の消滅による利益を享受したと認められると指摘。本件外国税額が海外出向者の帰国後に納付されていることからすれば、社員らが日本の居住者となった以後の所得に該当すると判断した。

要  旨
  
  請求人が国外勤務を終えて帰国した海外出向社員ら(本件海外出向社員ら)の外国所得税額(本件外国所得税額)をその帰国後に納付したことについて、原処分庁が居住者に対する給与等の支払に当たるとして、源泉所得税の納税告知処分等をしたのに対し、請求人は、海外出向社員の外国所得税額を請求人が負担することは海外勤務規定においてあらかじめ定められており、また、本件外国所得税額は、本件海外出向社員らが非居住者であった外国で勤務していた期間に支給された手取給与の額を基礎にグロスアップ計算されたものであり、当該手取給与と一体不可分であるから、所得税基本通達181〜223共−4《源泉徴収の対象となるものの支払額が税引手取額で定められている場合の税額の計算》の考え方に従い、本件海外出向社員らの非居住者期間中に生じた所得として取り扱うべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人の海外勤務規定には、請求人が海外出向社員の外国所得税額を負担する時期についての規定はないところ、本件海外出向社員らは、使用者である請求人が同人らに代わって本件外国所得税額を納付した時に請求人から租税債務の消滅による経済的利益の供与を受けたものと認められ、また、当該納付が本件海外出向社員らの帰国後に行われていることからすれば、当該経済的利益は本件海外出向社員らが居住者となった以後の所得となる。
(参照条文等)所得税法第183条第1項

留守宅手当、海外出向中の日本への出張は要注意
   
  海外の子会社や関連会社へ出向した社員(非居住者)に対して、出向元の会社が較差補填のために支給する留守宅手当については、日本で支払ったとしても、海外勤務のためのものであるため、国外源泉所得として源泉徴収の対象とはされていない。
 ここで留意したいのは、海外出向者が日本に出張で帰国している場合だ。一般的に、この場合の留守宅手当については、短期滞在者免税は適用されず、日本への出張期間の部分については、国内源泉所得となり、源泉徴収の対象になる可能性が高い。調査等で否認されるケースもあるようだ。

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コラム

雇用促進税制に関するQ&A

2012年 03月 05日

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(以上、最新順)  

 

週刊「T&A master」445号(2012.4.2「SCOPE」より転載)

(分類:税務 2012.6.20 ビジネスメールUP! 1697号より )

 

 
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