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法人財産を個人に還流する際の落とし穴
法人所有不動産の売却代金、株主名義口座への送金は配当に

 東京高裁第4民事部(芝田俊文裁判長)は4月10日、法人所有不動産の売却代金が唯一の株主である控訴人(納税者)名義の口座に振り込まれたことについて、法人から控訴人に対する配当であるとの判断を示し、納税者の控訴を棄却する判決を言い渡した。芝田裁判長は、法人所有不動産の譲渡にあたり、法人の株式譲渡による会社売買の法形式で不動産を譲渡していれば、本件更正処分等の事態に至らなかったことも予想されると指摘している。日本の税制が「所得・相続税増税、法人税減税」へと向かっているなか、個人所有の財産を法人名義に移す動きも想定されるが、その法人所有の財産を現金化し、株主である個人に還流する際には、注意が必要といえそうだ。

原審の東京地裁、譲渡代金は海外法人に帰属し本件送金は“配当”と判断
譲渡収益の帰属先も争点の1つに

 今回紹介する事案は、海外法人R社による海外不動産等の売却代金(海外の税務当局への納付税額を控除した残額)がその法人の唯一の株主である納税者(居住者)の口座に送金された行為に関して、@本件不動産等の譲渡収益は、当初、海外法人R社と納税者のどちらに帰属していたか、A海外法人R社から株主への送金は、海外法人R社から納税者への配当に該当するか否かが争われていたもの(事案の概要は参照)。

 原審の東京地裁判決(川神裕裁判長)は、争点@については、買主である法人との間で締結された売買契約書等には、海外法人R社が本件不動産等の売主である旨記載されているのであるから、特段の事情がない限り、本件不動産の譲渡収益は海外法人R社に帰属すると解するのが相当であると判示。そのうえで川神裁判長は、海外法人R社が全く形骸化した存在であり、海外不動産等の売買契約が実質的には納税者と買主である法人との間で締結されたと認めることはできないと指摘し、本件不動産等の譲渡収益は、当初、海外法人R社に帰属したものというべきであると結論付けた。
納税者は唯一の株主であることを指摘
 また川神裁判長は、争点Aについては、送金当時、納税者は海外法人R社の唯一の株主であること、納税者は海外法人R社の代表者ではなく、役員または使用人でもなかったことを指摘。海外法人R社から納税者に対して本件金員が支払われる法律関係が他にあるとはいえないことからすれば、送金された金員は、納税者に対し、海外法人R社の株主としての地位に基づいて支払われたと解せざるを得ないとして、納税者の配当所得に該当するとの判断を示していた。

法人の株式譲渡であれば本件更正処分等がなかった可能性も……
東京高裁、原審判決を全面支持

 東京高裁第4民事部の芝田俊文裁判長は、ペーパーカンパニーとはいえ、海外法人R社が所有する資産を売却してフランスで納税し、控除残(法人内部留保金)を株主に分配するのは、まさに配当所得に当たるというべきであるなどと判示して、東京地裁判決を全面的に支持し、納税者の控訴を棄却している。
 納税者は、控訴審において、「一般の納税者であれば、緊急な資金を獲得するために、そのオーナー会社から融通を受けることは、極めて通常のことであって、これを配当(または賞与)としていったん課税を受けることは夢にも考えられない」などと記載された鑑定意見書を援用したうえ、本件送金による資金移転を株主たる地位に基づく資金供与と認定することは、社会通念から見て合理性がなく、せいぜい海外法人から納税者に対する仮払金になるに過ぎないなどと主張していた。
 この主張に対して芝田裁判長は、仮払金とは現金の支払取引に際し、勘定科目が未確定である場合に、その取引を一時的に処理するために用いられる勘定であることを指摘。納税者の主張を前提にした場合、平成16年に行われた本件送金に係る金員の授受について、本件訴訟に至るまで仮払・仮受関係が続いていたということになり、企業会計に係る基本的な考え方に反するものであるとしたうえ、納税者の主張を退けている。また、納税者が本件金員の一部を投資信託の購入資金に充てるなど、納税者が自己の所得としていることは明らかであると指摘している。
 なお、芝田裁判長は、判決文のなかで、海外法人R社が所有する不動産の譲渡にあたり、海外法人R社の株式譲渡による会社売買の法形式で不動産を譲渡していれば、本件更正処分等の事態に至らなかったことも予想されると指摘している。
 しかし、本事案では、不動産の買主が法人の株式譲渡による会社売買の法形式を拒否したというのであるから、如何ともし難く、本件更正処分等を違法などということは到底できないとしている。

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週刊「T&A master」449号(2012.4.30「SCOPE」より転載)

(分類:税務 2012.7.23 ビジネスメールUP! 1710号より )

 

 
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