審判所、本件信託受益権の譲渡対価は益金算入
金商法で否定された売却取引、法人税法での取扱いは?
上場企業であるX社が上場前に行った特別目的会社(SPC)を利用した不動産流動化に伴う信託受益権の譲渡取引を巡り、会計上売却取引には当たらず金融取引と判断されたことを受け、法人税法上も売却がなかったものとして取扱われるか否かが争われた事案で、国税不服審判所はX社の審査請求を棄却していたことが明らかとなった。審判所は、法人税法上、本件信託受益権の譲渡は有償による資産の譲渡に該当し、不動産流動化実務指針におけるリスク・経済価値アプローチにより本件信託受益権の譲渡を金融取引とする取扱いは、法人税法上採用できるものとは認められないなどと指摘。金商法と法人税法の認識要件の相違が浮き彫りになった格好だ。
証券取引等監視委員会の指摘を受け有価証券報告書を訂正
リスク負担割合31%、売却取引に該当せず
本事案で争われていたのは、X社が行ったSPC(特別目的会社)を利用した不動産流動化に伴う本件信託受益権の売却取引(図参照)について、X社の出資に係るリスク負担割合が、会計上売却取引としては認められない5%超(約31%)であったことなどを理由に、会計上否定された信託受益権の売却取引が法人税法上においても否定されるかどうか。
請求人であるX社は、自社が所有する不動産の流動化により取得した信託受益権のSPCへの譲渡取引を、当初の法人税の申告において不動産売却取引として益金に算入していた。
ところが、証券取引等監視委員会から譲渡取引とは認められない旨の行政指導があったことから、X社は過年度決算を訂正。この過年度決算訂正にあわせて、法人税法上も譲渡がなかったものとする旨の更正の請求をしたところ、税務署は更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたため、その処分の取消しを求め異議申立てを経て審査請求に及んでいた(金融当局と課税当局の判断は表参照)。
【表】本件不動産流動化に伴う信託受益権の譲渡が売却取引か否かに関する当局の判断
当 局 |
判 断 |
証券取引等
監視委員会 |
本件不動産流動化において、SPCに対するX社の出資額にX社の子会社に該当するT社の出資額を加算すると、X社のリスク負担割合は31.03%となり、5%を超過するため、本件不動産流動化に係る会計処理として売却処理は認められない。
→金融取引と判断 |
税 務 署 |
X社がSPCに信託受益権を譲渡したことについて、不動産流動化に係る契約書に信託受益権の譲渡がなかったものとするような条項が含まれておらず、法形式上、金融取引とする理由はない。 →売却取引と判断 |
審判所、譲渡契約は私法上有効と判断
X社の審査請求に対して国税不服審判所は、法人が有償による資産の譲渡をした場合には、「別段の定め」がない限り、私法上有効に成立した契約により譲渡時においてその資産の価値が顕在化したものとして、その資産の譲渡対価を収益の額として当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入するのが原則であると指摘。
本事案では、X社のSPCに対する本件信託受益権の譲渡は、信託財産である不動産を譲渡したものとして取り扱うものであるところ、法人税法において、不動産を譲渡した場合に譲渡人がその不動産に関して経済的に負っているリスクを計算して、それが残っていれば当該譲渡不動産の消滅を認識しない(金融取引処理)とする「別段の定め」は存在しないのであるから、法人税法22条2項に規定する有償による資産の譲渡に該当するものとして、私法上有効に成立した契約にのっとりその譲渡対価を収益の額として所得金額を計算するのが相当であるとの判断を示している。
また審判所は、不動産流動化指針における「おおむね5%の範囲内」というリスク負担割合によって売却を認識する基準等は、投資家保護の観点から定められているものであると指摘し、わずかな経済的リスクが残されていることをもって譲渡と扱わないことは、公平な課税の実現を阻むことになるため、直ちに採用できるものではないとした。そのうえで審判所は、法人税法上、本件信託受益権の譲渡は、有償による資産の譲渡に該当し、不動産流動化実務指針におけるリスク・経済価値アプローチによる本件信託受益権の譲渡を金融取引とする取扱いは、法人税法の所得の金額の計算上採用できるものとは認められないとして、X社の審査請求を棄却している。
なお本事案は、現在裁判所で争われている。
【参考】「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」
(日本公認会計士協会会計制度委員会報告第15号)
第5項 不動産が特別目的会社に適正な価額で譲渡されており、かつ当該不動産に係るリスクと経済価値のほとんどすべてが、譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転していると認められる場合には、譲渡人は不動産の譲渡取引を売却取引として会計処理する。<br>第13項 リスクと経済価値の移転についての判断に当たっては、リスク負担を流動化する不動産がその価値のすべてを失った場合に生じる損失であるとして、流動化する不動産の譲渡時の時価に対するリスク負担割合がおおむね5%の範囲内であれば、リスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転しているものとして取扱う。<br>第16項 リスク負担割合の算定に当たっては、譲渡人の子会社または関連会社が負担するリスクを譲渡人が負担するリスクに加えてリスク負担割合を算定して判断する。 ※ 一部省略化したうえで抜粋 |
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(週刊「T&A master」451号(2012.5.21「SCOPE」より転載)
(分類:税務 2012.8.6 ビジネスメールUP!
1716号より
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