“伝家の宝刀”では使えない金商法193条の3
法令違反を発見した場合は監査役に通知
企業会計審議会の監査部会は、会計不正等に対応した監査基準の検討に着手した。オリンパスなど、最近の粉飾決算事件を踏まえたもの。1年程度かけて検討が行われる。
5月30日の部会で議論の1つに挙げられたのは、金融商品取引法193条の3の規定である。これは平成19年の公認会計士法等の一部を改正する法律による金融商品取引法の一部改正で設けられた法令違反等事実発見時における監査人の当局への申出制度だ。
具体的には、平成20年4月1日から公認会計士または監査法人が法令違反等の事実を発見した場合については、内閣総理大臣(金融庁)へ報告する前に、法令違反の事実の内容および事実に係る法令違反の是正措置等をとるべき旨を記載した書面を特定発行者(被監査会社)の監査役等に通知することとされている。
また、監査役等に通知してから一定期間が経過した日後、是正が図られない場合には、内閣総理大臣(金融庁)への報告を義務付けられることになった。
オリンパスでは発動を仄めかすも……
制度発足から4年が経過しているが、監査法人等から金融庁に報告がされたという話はまだ聞かない。同制度が“伝家の宝刀”といわれる所以である。基本的にはここぞという場合にしか使われないことが前提となっているからだろう。
とはいっても、金融庁へ報告を行う前の段階だが、監査法人が監査役等に法令違反の事実を通知したケースはある。以前、東京証券取引所に上場していた春日電機では、ビーエー東京監査法人(現UHY東京監査法人)が同制度を活用(本誌287号40頁参照)。また、最近では、JASDAQ上場のセラーテムテクノロジーがパシフィック監査法人より金商法193条の3に基づく法令違反等事実の通知を監査役会が受けている(その後、同社の監査役会は法令違反の是正措置等を講じる旨を監査人に報告)。
オリンパスにおいても、第三者委員会調査報告書によれば、あずさ監査法人が金商法193条の3の発動を仄めかし、問題提起を行っていることが明らかになっている。
カードとして機能しない不適正意見
上場企業の場合、監査法人により不適正意見を付されることになれば、その企業は上場廃止となる。
企業側に問題があるといっても、「不適正意見」はその企業に対する生殺与奪の権利を持っているといえる。実際問題、カードとして使うのは、監査法人にとっては酷であろう。
これまで以上に金商法193条の3を機動的に発動させることにより、企業側の自浄作用を促せないだろうか。
オリンパスの件では、金商法193条の3がどうして発動されなかったのか疑問は残る。だが、ここに実効性ある制度のあり方のヒントが隠されているかもしれない。
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キーワード 「193条の3」⇒9件
(週刊「T&A master」455号(2012.6.18「コラム」より転載)
(分類:税務 2012.9.7 ビジネスメールUP!
1727号より
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