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負債の評価や自己株式処分の処理でバラつき
日本版ESOP制度、退職給付型の会計処理に問題

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、財務会計基準機構の基準諮問会議の提言を受け、いわゆる日本版ESOP制度の会計処理について、実務専門委員会で検討する方針だ。日本版ESOP制度については、多くの上場企業が利用しているが、会計処理は企業間でバラつきがある状況。実務専門委員会で現状や問題点などの洗い出しを行うとしている。
 日本版ESOP制度の会計処理については、日本公認会計士協会が問題意識を持っており、7月11日に開催された基準諮問会議において、日本版ESOPの会計処理を企業会計基準委員会の新たな検討テーマとして取り上げるよう提言を行っていたものである(本誌460号24頁参照)。

従業員持株会型は総額法による会計処理で収束したが……
100社超が採用
 日本版ESOP制度とは、中間法人や信託といったビークルを利用して会社からの拠出金や金融機関等の借入等を用いて、将来、従業員に付与する株式を一括して取得し、当該株式を一定期間保有した後に従業員に付与するという自社株式保有スキームのことである。わが国では、「従業員持株会型」といわれる種類が広まっている。すでに100社を超える企業が採用しており、今後も増加していくことが予想されている。
 この従業員持株会型については、企業会計基準委員会が公表した「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点の整理」のなかで日本版ESOP制度の会計上の取扱いの考え方を盛り込んでいる(脚注10)。
総額法による処理
 論点整理の脚注10によれば、ビークルとして利用する信託については、連結財務諸表上、子会社とはせず、日本版ESOP制度の導入企業の財産として処理することが適当であるとしている。また、この場合には、いわゆる総額法による処理と同様になる旨が明らかにされている。
 ただし、会計処理の考え方はそこまでであり、自己株式の処分の会計処理のタイミングや信託で発生した売却損益の会計処理については何ら明確にされていない。

退職給付型の会計処理は何ら規定されず
 また、最近では、従業員持株会型に加え、「退職給付型」と称するスキームも出てきており、数こそ30社程度と少ないものの、これを採用する企業も存在する。退職給付型については、まったく会計処理の考え方が示されていない状況。企業間での会計処理にバラつきが多く、日本公認会計士協会では問題視している模様だ。
退職時にポイントと交換
 退職給付型とは、会社が信託を組成し、自己株式を取得させ、従業員が退職した際に当該退職者に対して、自己株式を給付するというもの。給付の方法は、従業員の勤続年数などに応じてポイントを付与し、従業員の退職時に累積したポイントに相当する自己株式を給付することになる(参照)。自己株式を活用した従業員向けのインセンティブを目的としている。

 問題となるのは、@信託が連結子会社に該当するか否か、A信託をオンバランスするか否か、B会社が従業員に付与するポイントの測定、C自己株式の処分の会計処理のタイミングが挙げられる。
売却時か交換時か
 Bについては、従業員に付与されるポイントの負債の評価をどのように行うのかが問題となる。
 また、Cは、自己株式が会社から信託に売却され、その後、信託から従業員にポイントと交換されることにより受益者に譲渡されることになるが、それぞれの時点での会計処理方法が問題となる。

過去には経産省が日本版ESOPの税務や会社法の考え方を明らかに
 日本版ESOPに関しては、経済産業省が平成20年11月17日に、「新たな自社株式保有スキーム」と題する報告書を公表している。
  当時、日本版ESOPは政府の経済対策に盛り込まれたが、その導入に際しては、会社法、会計、税法上の取扱いが問題となっていた。
  経済産業省が公表した報告書によれば、たとえば、会社法の場合は、@ビークル(子会社に該当する場合)がESOP導入会社(親会社)の株式を取得することが、親会社株式取得規制や自己株式取得規制に抵触するか、A導入企業がビークルに対して一定の財政的支援(従業員に対する奨励金の支給等)を行うことが、株主の権利の行使に対する利益供与や株主平等原則等に抵触するかが問題となっていたが、これらの問題に抵触しない旨の見解が示された。
  また、税務に関しては、現行規定を踏まえ、たとえば、一定の要件を満たす場合には、信託受益権は従業員に対する「給与」として法人においては損金算入、従業員においては給与所得として課税が行われる旨が明らかにされている。
  会計に関しては、企業会計基準委員会が検討することとされた。具体的には、「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点の整理」の脚注10でその考え方が示された。
  しかし、当初は従業員持株会型のみだったが、現在は退職給付型など種類も多様化しており、会計処理の考え方も不明確なままとなっている。

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  キーワード 「バラつき」⇒7

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コラム

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2012年 07月 23日

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週刊「T&A master」462号(2012.8.6「SCOPE」より転載)

(分類:税務 2012.11.2 ビジネスメールUP! 1749号より )

 

 
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