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ストック・オプション課税訴訟判決の真実

「その時」どうするか・ 職業会計人の考える力が問われている!

 平成14年11月26日、ストック・オプション課税訴訟についての初めての判決言い渡しが行われた。その内容は、前ペ−ジに紹介したが、ストック・オプション訴訟の審理・判決を追ってきた記者は、ただ「あの時」のことが脳裏を横切った。税理士事務所職員として、ストック・オプションの所得区分の判断を迫られた数年前の3月のことである。

What is ストック・オプション?
 この年の確定申告の依頼者名簿には、新しい名前があった。前年中に有名外資系企業の日本子会社の社長を退任して、独立された方だった。その外資系企業から付与されたストック・オプションの行使という見慣れない所得があった。付与契約書は英語、通貨・相場も外国もの、ストック・オプション制度自体は理解できても、面倒そうだなというのが、偽らざる感想であった。
 担当職員は、私の同僚であった。同僚も難渋していたようだが、付与契約書の訳文を取り寄せ、過去のストック・オプションの確定申告書(監査法人系の税理士が作成したもの)を参照しながら、例年どおりの方針(一時所得での取扱い)で申告書を作成することになっていた。

待ったなし、どうすればいいの?一時所得or給与所得?
 同僚から申告書の検算が回ってきた。私は、ストック・オプションの申告を目にするのは初めてだったし、金額も大きかったので、本当にこれが一時所得で問題ないのかを専門誌・解説書を使って調べてみたが、確証は掴めなかった。
 気がかりなのは、平成8年6月18日付「所得税基本通達」の一部改正で、給与所得として考える余地のあることだった。当時、海外親会社が付与するストック・オプションの情報をどれだけ持っていたかについては、覚えていない。しかし、その時に私は、給与所得として取り扱う考え方に変わってきたのではということを、同僚に指摘した。
 依頼者に署名押印をいただく直前の段階で、しかも給与所得と一時所得では、納税額も大きく異なり、どちらにも確証がないということで、担当職員は大慌て、所長との協議が始まった。もちろん簡単に結論が出せるわけはない。給与所得の場合の申告書・一時所得の場合の申告書の2通りの申告書と資料を作成し、所長が依頼者に説明することになった。

毅然とした依頼者の対応に感動
 ストック・オプションが給与所得として課税される可能性があることを聞いた依頼者は、説明を聞いた上で、「私は、ストック・オプションを給与だとは思っていません。株価の上昇は、予想・計算できるものではありません。」と話し、附帯税等のリスクを承知した上で、一時所得での申告書に署名・押印をした。調査・更正処分・不服申立て手続き・訴訟にいたるまで、依頼者の主張に一寸のブレも見られなかった(本判決の原告とは別人です。)。

職業会計人の責任は?
 仮に、今回の判決が確定した場合に、当局の見解を信じて、顧客に給与所得での申告をさせた税理士は結果責任を負うことになるのだろうか。逆の結論で、給与所得に落ち着いた場合に、一時所得を確信して、申告させた税理士の責任はどうなるのだろうか。最終的には、職業専門家として、説明責任を果たさねばならないことになる。「解説書にこう書かれていた」という言い訳だけでは「無能」の烙印をおされかねない。
 記者には、「職業会計人に厳しい時代」の到来を感じさせる重い判決であった。



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週刊「T&A master」プレ創刊2号「最重要ニュース」より転載)

(分類:税法 2003.1.24 ビジネスメールUP! 384号より )

 

 
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