船舶リース控訴審も納税者が勝訴(課税当局の控訴を棄却)
「ケイマンの特例LPSは、我が国の民法組合の要件を満たし得るもの」
名古屋高裁民事4部(野田武明裁判長)は平成19年3月8日、ケイマン法による特例リミテッド・パートナーシップ(以下「特例LPS」)を通じて行われた船舶賃貸事業(以下「船舶リース」)の契約類型(当該組合参加契約が民法上の組合契約かそれとも利益配当契約となるのか)が主たる争点となった「船舶リース」事案について、「ケイマンの特例LPSは、我が国の民法組合の要件を満たし得るもの」などと判示し、課税処分を取り消した第一審判決を正当とする判決を言い渡した。
事案の概要
本件は、被控訴人(納税者)らがそれぞれ一般組合員(リミテッド・パートナー)となっているケイマン法による特例LPSとして行った船舶リースに係る収益が不動産所得に当たることを前提に、その減価償却費等を損益通算して所得税の確定申告を行ったのに対し、控訴人(課税当局)らが、被控訴人らの締結した組合参加契約は民法上の組合契約ではなく、利益配当契約にすぎないことを理由に、同収益は雑所得であって損益通算は許されないとして、被控訴人らに対し、各更正処分および各過少申告加算税賦課決定処分(以下、これらを「本件各処分」と総称する。)をしたことから、被控訴人らが、本件各処分の取消しを求めた3件の抗告訴訟が併合されて審理されたものである。
第一審判決の内容
第一審(名古屋地裁)は、本件各組合参加契約の契約類型(経済的合理性および法形式の異常性の有無など)が検討され、「本件各組合参加契約は、民法上の組合契約として成立していると認められ、これを否定した上で、利益配当契約に該当するとの被告(課税当局)らの主張は採用できない。そうすると、本件各組合が行う本件各組合が行う本件賃貸事業による収益が、原告ら一般組合員についても、不動産所得として区分されるべきことは明らかである。」などと判示され、原告(納税者)の本件各処分の取消請求が認容された。
本件控訴審における争点
本件では、「本件各組合における一般組合員とされた被控訴人らが、本件船舶リースにおける減価償却費等を他の所得と損益通算することができるか」が争点となっているが、本件船舶リース事案に類似した事案とされる「航空機リース」事案では、納税者の主張が名古屋地裁、名古屋高裁などで認容された段階において、課税当局が訴訟の遂行を断念しており、納税者勝訴が確定している。両事案の相違点としては、航空機リース事案における組合契約が私法上民法上の組合(任意組合)の形式を採っていたのに対し、船舶リース事案における組合契約はケイマン法による特例LPSである点である。
ケイマンの特例LPSは、当該組織の負債、義務のすべてについて責任を負うゼネラル・パートナーと出資額を超えて当該組織の負債、義務について責任を負わないリミテッド・パートナーの存在を前提とした制度であり、組合員の共同事業のみを規定した我が国における民法上の組合と規律をまったく同じにしたものではない。
民法上の組合との前提では、本件の第一審判決(前記)や航空機リース事案の影響が避けられない。課税当局は、本件控訴審においてケイマンにおける特例LPSが我が国における民法上の組合とは合致しないことなどの主張を強めていた。
本件控訴審においては、次の争点について判断が示されている。
○ 争点(1)(本件各組合参加契約は民法上の組合契約として有効に成立しているか。)について
○ 争点(2)(本件各組合参加契約が民法上の組合契約として有効に成立しているとした場合、被控訴人らが本件各組合から受ける利益の所得区分を不動産所得と見ることができるか。)について
○ 争点(3)(本件各船舶は本件各組合の事業の用に供されており、減価償却資産に当たるものといえるか。)について
○ 争点(4)(本件各組合の事業は減価償却制度を濫用するものといえるか。)
控訴審の判示
控訴審判決は上記控訴審での争点に係る課税当局の主張に対し、ケイマンの特例LPSについて、ケイマン法の定めなどから次のように判示した。
「ケイマンにおける特例LPSは、法人格を有せず、構成員間の契約関係という性質を有するものと認められる。そして、『共同で事業を行う人々の間に存在する関係』とは、@2人以上の当事者の間のA各当事者が共同事業を営むことの合意を意味するものと解されるところ、我が国の民法の解釈としても、内部的に出資額以上の損失を負担しない当事者がいたとしても、組合契約の成立を妨げるものでないことは前記のとおりであるから、結局、ケイマン法に基づいて成立された特例LPSである本件各パートナーシップは、我が国の民法における組合の要件を満たし得るものというべきである。」
「控訴人らの指摘する特例LPS法の諸規定は、いずれもリミテッド・パートナーの所有権を否定する根拠となるものでなく、ケイマン法を根拠に被控訴人らが本件各船舶の共有持分権を有していないとする控訴人らの主張は採用できない。」
「本件各船舶は、本件各パートナーシップのパートナー財産と認められ、そのリミテッド・パートナーである本件各組合の組合員である被控訴人らは、本件各船舶の共有持分件を有するものと認められる。」
本件組合参加契約が我が国の民法上の組合契約に相当するものと判示されたことにより、船舶リース事案の固有の争点は消滅することになる。航空機リース事案と同様に、船舶リース事案においても、控訴審において、納税者の主張が容認される結果となった。
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(週刊「T&A master」203号(2007.3.19「今週のニュース」より転載)
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