租税回避目的などを認定し、「生活の本拠」の国外移転を認めず
武富士控訴審は第一審で取り消された巨額課税処分を容認
東京高裁第12民事部(柳田幸三裁判長)は1月23日、消費者金融大手・武富士の元会長(故人)夫妻からオランダの投資会社の株式を贈与された長男が、国を相手に贈与税など約1,330億円の課税処分等の取消しを求めた訴訟で、「本件事実関係の下では、香港における滞在日数を重視し、これを日本における滞在日数と形式的に比較してその多寡を主要な考慮要素として本件香港自宅と本件杉並自宅のいずれが住所であるかを判断するのは相当ではないというべきである。」などと判示し、課税処分(決定処分等)を取り消した原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却する判決を言い渡した。
本件贈与日当時の相続税法は、日本国内に住所を有していない者が国外財産の贈与を受けた際にはわが国の贈与税が課税されないものとしており、資産家の間では、国外の子息に国外財産を贈与する租税回避スキームが散見され、本件は当該スキームの典型的な事案として注目されてきた。
事案の概要
被控訴人は、亡父および母から、平成11年12月27日付けの株式譲渡証書(以下「本件贈与契約書」という)により、A社(オランダ王国における有限責任非公開会社)の出資口数各560口、160口(合計720口、以下「本件出資」という)の贈与を受けた。
本件は、被控訴人が、これについて杉並税務署長がした平成11年分贈与税の決定処分(以下「本件決定処分」という)および無申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件決定処分と併せて「本件決定処分等」という)は、被控訴人は本件贈与の日に日本に住所を有しておらず、相続税法(平成11年法律第87号による改正前のもの、以下「法」という)1条の2第1号により納税義務を負わないから、違法であると主張して、その取消しを求めた事案である。
原審は、被控訴人の請求を認容したところ、控訴人が請求の棄却を求めて控訴した。
第一審(原判決)の判断
原判決では、原告の住居および職業等について検討を行ったが、「国内自宅と香港自宅はいずれも生活の本拠として住居たりえるものであるといえ、住居の点から原告の住所が国内にあったとすることはできない。」「原告の職業に着眼しても、本件滞在期間中の原告の職業活動は、とりわけ香港を中心としたものというべきであって、生活の本拠が国内にあったことを裏付ける要素は乏しいといわざるを得ない。」と判示して、被告(国)の主張を斥けた。
また、租税回避目的については次のように判示した。
「原告の香港滞在の目的の1つに贈与税の負担回避があったとしても、現実に原告が本件香港自宅を拠点として生活をした事実が消滅するわけではないから、原告が贈与税回避を目的としていたか否かが、本件国内自宅所在地が生活の本拠であったか否かの点に決定的な影響を与えるとは解し難い。」
さらに判決は次のようにまとめて、本件決定処分等の取消しを言い渡した。
「原告は3年半ほどの本件滞在期間中、香港に住居を設け、同期間中の約65%に相当する日数、香港に滞在し、上記住居にて起臥寝食する一方、国内には約26%に相当する日数しか滞在していなかったのであって、原告と亡父ないしT社との関係、贈与税回避の目的その他被告の指摘する諸事情を考慮してもなお、本件贈与日において、原告が日本国内に住所すなわち生活の根拠を有していたと認定することは困難である。被告の主張は、原告の租税回避意思を過度に強調したものであって、客観的な事実に合致するものであるとはいい難い。」
控訴審の判断
控訴審では控訴人から住所複数説の主張が行われたりしたが、第一審と同様に被控訴人が日本国内に住所を有していたかが争点となった。
控訴審の柳田裁判長は、被控訴人の租税回避の目的等について、原判決とは判断を異にし、次のように判示した。「被控訴人は、(略)香港に居住すれば将来贈与を受けた際に贈与税の負担を回避できること及び上記の方法による贈与税回避を可能にする状況を整えるために香港に出国するものであることを認識し、出国後は、本件滞在期間を通じて、本件贈与の日以後の国内滞在日数が多すぎないように注意を払い、滞在日数を調整していたものと認めるのが相当である。」「被控訴人は、滞在日数を調整していることからすると、本件事実関係の下では、香港における滞在日数を重視し、これを日本における滞在日数と形式的に比較してその多寡を主要な考慮要素として本件香港自宅と本件杉並自宅のいずれが住所であるかを判断するのは相当ではないというべきである。」
さらに、被控訴人が香港に出国するまで起居していた本件杉並自宅の状況・被控訴人の日本滞在時における本件杉並自宅での起居・東証一部上場企業である武富士の取締役であるといった職業活動(本件滞在期間中に武富士の専務取締役に昇進)・資産の所在の状況・被控訴人の居住意思などを検討したうえで、「本件滞在期間中の被控訴人の香港滞在日数が前記(65.8%の日数香港に滞在)のとおりであり、被控訴人が香港において前記のとおり職業活動に従事していたことを考慮しても、本件滞在期間中の被控訴人の生活の本拠は、それ以前と同様に、本件杉並自宅にあったものと認めるのが相当であり、他方、本件香港自宅は、被控訴人の香港における生活の拠点であったものの、被控訴人の生活の全体からみれば、生活の本拠ということはできないものというべきである。」「以上によれば、被控訴人が贈与により財産を取得した時において国内に住所を有する者に該当するとしてした本件決定処分等は適法である。」と判示し、国側逆転勝訴の判決を言い渡した。
※
記事の無断転用や無断使用はお断りいたします
⇒著作権等について
T&Amaster 読者限定サイト
検索結果(注:閲覧には読者IDとパスワードが必要になります)⇒ID・パスの取得方法
キーワード 「贈与税 回避」⇒73件
(週刊「T&A master」245号(2008.2.4「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2008.3.21 ビジネスメールUP!
1102号より
)
|