上告人の上申を受け、補助参加の申出書を取下げ
武富士事件上告審に新展開がみられたが、結局「住所」を争点に
国外財産の非居住者への贈与を巡り、住所の認定(解釈)を主たる争点として争われてきた、現在最高裁に上告(および上告受理申立て)が行われている武富士事件では、上告人にとっては母違いの兄弟となる贈与者A(武富士の創業者・故人)の前妻の子らから、「錯誤無効(民法95条)」であるとの予備的主張を行う補助参加の申出書が最高裁に提出された。しかしながら、上告人本人が、「錯誤無効」を主張する意思がない旨の上申を行ったことなどもあり、補助参加の申出書は取り下げられた。
租税法律主義違反等を上告理由に
「武富士事件」では、3月下旬に、最高裁に上告理由書および上告受理(申立)理由書が提出された。
上告理由書では、憲法84条(租税法律主義)違反のほか、住所の認定基準に関する理由不備等、租税回避の目的に関する理由不備等、住所の判断に関する理由不備等が上告理由に挙げられている。
租税法律主義違反の主張では、これまで、「住所」については客観的な居住期間により判断がなされてきたが、原判決は、「租税回避の目的」という意図があることをもって、その判断において、@民法に定められた住所の解釈を変更し、その解釈を根拠に課税処分を是認することで、国民の予測可能性という租税法律主義の要請に反したこと、A法律上の根拠なくして「租税法律行為の否認」を認めたことで租税法律主義に違反したこと、B平成12年の租税特別措置法改正を実質的に遡及適用することで、租税法律主義に違反したことの誤りを犯し、租税法律主義に違背したものと主張した。
また、住所の解釈については、「住所は、納税者の租税支払いの意図等とは独立に、私法の観点から純粋、客観的に認定されなければならない。」と主張した。
さらに、租税回避の問題については、「本件事案は、租税法の適用にあたっての租税回避が問題となった事案ではなく、その前段階である事実の確定にあたっての租税回避目的が問題となった事案であるから、厳密な意味での租税回避事案ではない。税法の解釈適用は、まず私法上の法律行為及びその経済的意味を認定して「事実の確定」が行われるが、「事実の確定」を行うに際し、「租税回避の目的」または「租税回避行為」という概念が入る余地はない。」と主張した。
上告受理申立てでは「財産評価」の問題も
上告受理申立理由書では、住所に関する問題のほかに、財産評価の問題や、無申告加算税にかかる「正当な理由」の解釈、延滞税にかかる「期間除算」の解釈が、上告受理申立理由に挙げられている。
相続税法22条「財産の取得の時における時価」の解釈については、上告受理申立理由書において、「本件の贈与対象財産となったオランダの有限責任非公開会社の評価について、株主としての個人に分配されると仮定した場合、所得税課税となる個人段階で発生する配当所得課税に関する税額相当額も控除すべき」と主張した。
「錯誤無効」の主張とは
上告理由書等の提出に合わせて、上告人にとっては母違いの兄弟となる贈与者A(武富士の創業者・故人)の前妻との間の子らから、「錯誤無効(民法95条)」であるとの予備的主張を行う補助参加の申出書が最高裁に提出された。
「巨額の贈与税の納税を要することがわかっていれば、そもそも贈与は行われなかったはずである。したがって、もし課税処分が(控訴審判決のように)認容されるのであれば、それは誤った前提(課税されないという前提)の上で行われた贈与ということになり、当該贈与は無効である。」というのが、「錯誤無効」の主張である。離婚に伴う財産分与について税負担に関する錯誤無効を認めた最高裁判決(最高裁平成元年9月14日判決)があるが、確立された判例とはなっていない。
さて、補助参加人は次のように主張した。
「本件贈与については、贈与税が課されることになれば、1,000億円を超える巨額の税金を納める必要が生じるところ、こうした贈与税の課税はなされないことが、本件贈与を行った当事者の大前提になっていた。本件贈与は錯誤無効(民法95条)であるという予備的主張を行い、上告人兼上告受理申立人を補助するものである。(中略)錯誤無効の主張をする地位は当事者(贈与者・受贈者(=上告人))にあり、贈与者の1人であるA(上告人及び補助参加人の父)については(相続により)申出人らにも承継されている。」
補助参加人からは、上告人自ら、あるいは贈与者Aの妻であり、贈与者の1人でもある上告人の母などが、「錯誤無効」の予備的請求を行うことを働きかけていた経緯があった。
「錯誤無効」の予備的請求を上告人が拒絶
上告人は、このような働きかけを拒んでいた。実際には、上告人の意に反して補助参加の申出が行われたため、上告人代理人から最高裁判所に対して、「上告人には、贈与契約の錯誤無効を主張する意思はなく、同代理人としても補助参加申出の理由は全くないと考えるのでその旨上申する。」との上申書が提出され、その上申書の提出を受ける形で補助参加の申出書は補助参加人の判断で取り下げられることになった。受贈者である上告人、贈与者の1人でもある上告人の母などが、錯誤無効を主張する意思がなければ、いくらAの相続人であるといっても、贈与契約の錯誤無効を主張することは難しい(そもそも、原状回復が困難であると思われる)との判断が行われたものであろう。一方、上告人からすれば、主たる請求が認められない場合に備えた予備的請求などの手段をとらなくても、本来の争点(住所の解釈)での上告審の争いに十分な勝機があるものと見込んでいるのであろう。
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(週刊「T&A master」260号(2008.6.2「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2008.7.18 ビジネスメールUP!
1150号より
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