ガイダント事件は課税庁の上告不受理で決着
「事業を行なう」「租税条約の趣旨目的」は上告理由に該当せず
最高裁判所第一小法廷(横尾和子裁判長)は6月5日、オランダ法人が日本法人から匿名組合契約であることに基づく利益分配金として受領した金員に対する法人税の決定処分および無申告加算税の賦課決定処分の是非が争われていた事案(ガイダント事件)について、課税庁の行った上告受理申立てを受理しない決定を行った。
下級審では匿名組合契約が争点に
本件の第一審では、@本件契約は、商法535条に規定する匿名組合契約であるか、それとも民法667条1項の適用がある組合契約(「任意組合契約」)であるか、A原告(オランダ法人)が日本G社(日本法人)から匿名分配金という名目で受領した金員は、日蘭租税条約に規定するいずれの所得に該当するかなどを争点として争われた。
また、控訴審では、一審で敗訴した課税庁は、@「仮に、本件組合が匿名組合の一種であると性質決定されたとしても、非典型的匿名組合契約であり、被控訴人が日本に恒久的施設を有するというべきである。」A「オランダの税務当局も調査の上、本件各利益は日蘭租税条約の解釈上、我が国に課税権があると判断している。」B租税回避スキームは租税条約の趣旨にも反する。」などと主張したが、東京高裁は、「本件契約は日本の商法を準拠法として締結されたものであるから、我が国の商法、その他我が国の法律に予定されていない非典型的匿名組合という制度を当事者が想定して本件契約を締結したということはありえない。」などと判示して、課税庁の控訴を棄却した。
「事業を行なう」の意義を上告受理申立て理由に
課税庁は、以下を要旨とする上告受理申立て理由書を提出したが、最高裁判所第一小法廷は平成20年6月5日、本件を上告審として受理しない決定を行った。
1 日蘭租税条約8条1後段は、「一方の国の企業が他方の国にある恒久的施設を通じて当該他方の国において事業を行なう場合には、その企業の利得に対し、当該恒久的施設に帰せられる部分についてのみ、当該他方の国において租税を課することができる。」と規定する。これを本件についてみると、我が国は、「オランダ企業(相手方)が我が国にある恒久的施設を通じて我が国において事業を行なう場合」には、「その企業の利得」に対し、当該恒久的施設に帰せられる部分について、課税権を有することとなる。
2 「事業」あるいは「事業を行なう」という用語については、「この条約が適用される租税に関する」我が国の法令上有する意義を有するものと解される。
「事業」という文言は、所得税法27条(事業所得)は、「自己の計算と危険において」営まれる業務という点が同条にいう「事業」概念の中核であり、匿名組合員が「自己の計算と危険において」匿名組合業務を行っているといえる場合には、日蘭租税条約8条1後段所定の「事業を行なう」という課税要件が実現されたものと解することができる。
これを本件についてみると、@相手方が、日本法人と共に本件事業に参画する意思を有し、日本法人と共に本件事業を行うために本件契約を締結したこと、A本件契約上、米国親法人、関連オランダ法人および相手方は、事実上の共同事業者として営業者(日本法人)による本件事業の運営に自己の意思を反映させることが可能な立場にあったこと、B相手方は、本件契約上、本件事業に係る損益または本件事業の成否の結果を自ら負担していたことからすれば、相手方は、「自己の計算と危険において」本件事業を行っていたものというべきであるから、日本法人の事業所という「恒久的施設」を通じて我が国において「事業を行なう」ものと認められる。
3 たとえ本件契約の私法上の性格が匿名組合契約であるとしても、匿名組合員が「自己の計算と危険において」匿名組合業務を行っているといえるときには、日蘭租税条約8条1後段所定の「事業を行なう」という課税要件が実現されたものと解すべきである。
匿名組合員が対外的に営業主体とされないからといって当該事業が匿名組合員にとって営業という性格を持ちえないわけではない。そして、原判決は、商法542条、156条は強行規定であり、それに反する合意は無効であるとした上で、申立人が主張するように、本件契約の文言に基づき、匿名組合員が業務執行の方針決定の判断に参加することができる権利を有すると解することは、上記規定の強行法規性に反するもので、容認できない旨判示するが、商法156条の規定中業務執行に関する部分は任意規定と解するのが相当であるから、原判決の上記判示は判例に違反しており、明らかに誤りである。
4 相手方は、オランダの税務当局に対し、本件各利益については、日蘭租税条約2、8条により日本に課税権があるとして、オランダにおける課税所得から控除されるべきことを主張しており、オランダの課税当局も、相手方の上記主張を正当なものと認め、我が国に対し、情報提供を行なっている。ところが、本訴において、相手方は、オランダの税務当局に対する上記主張を翻し、本件各利益は日蘭租税条約23条所定の所得であるから日本には課税権がない旨を主張するに至り、原判決もかかる主張を認めている。
このような相手方の態度は、二重課税を防止するとともに国際的脱税または租税回避の防止等をも図ろうとする租税条約の趣旨目的を著しく逸脱するものであって、極めて悪質というほかない。
以上のように、本訴における相手方の主張および原判決の採る結論が、租税条約の趣旨目的に反し、極めて不当であることは明らかであって、日蘭租税条約8条1後段の解釈適用を誤った原判決は、破棄されるべきである。
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(週刊「T&A master」272号(2008.9.1「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2008.10.15 ビジネスメールUP!
1183号より
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