タックス・ヘイブン対策税制は日星租税協定に違反しない
居住者(個人)にかかるシンガポール子会社の事案で課税処分を容認
東京地裁民事第3部(定塚誠裁判長)は8月28日、居住者にかかるタックス・ヘイブン対策税制(措置法40条の4)の適用の可否が争点となった事案に対し、「措置法40条の4第1項が、特定外国子会社等の所得に実質的に課税するものであるということはできず、日星租税協定7条1項に反するものではない」などと判示して、タックス・ヘイブン対策税制を適用した更正処分等を適法とする判決を言い渡した。
事案の概要
本件は、処分行政庁が、原告(個人)が株式を保有し、シンガポールにおいて設立された外国法人が、租税特別措置法40条の4第1項の特定子会社等に該当し、同条3項の適用除外規定の適用はないとして、同条1項に基づき、原告の平成14年分の所得について、当該外国法人の課税対象留保金額を、原告の雑所得の金額の計算上、総収入金額の額に算入して、原告に対し本件更正処分等をしたことから、原告が、その取消しを求めた事案である。
本件訴訟の争点
(1)措置法40条の4の規定が、日星租税協定7条1項に違反するか否か。(争点1)
(2)シンガポール法人であるA社が、措置法40条の4第3項の適用除外要件のうち、非持株会社等基準、実態基準および管理支配基準をいずれも充足するか否か。(争点2)
(3)仮にA社が適用除外要件を充足しないとしても、A社がシンガポールに所在することに経済合理性がある場合には、措置法40条の4第1項が適用されないと解すべきであるか否か。(争点3)
本件訴訟の背景
日星租税協定7条1項が、「一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行わない限り、当該一方の締約国においてのみ課することができる。……」と規定しており、原告は、「措置法40条の4第1項は、株主である我が国の居住者に係る特定外国子会社等であるシンガポール企業の留保所得を、当該企業が我が国にある恒久的施設を通じて我が国で事業を行っていない場合においても、当該企業の留保所得が株主である我が国の居住者に帰属するものとして、当該居住者の所得に合算して課税することを認めるものであるから、このような課税は、日星租税協定7条1項に違反するものである。」と主張してきた。
この主張は、中里実東京大学教授が諸外国の判決等を参考に議論してきたものであるが、本庄資名古屋経済大学大学院教授はその著書において強く反論している。
外資系の内国法人を原告とする同種の事案が法人税更正処分取消等請求事件で争われており、第一審(東京地裁平成19年3月29日判決)、控訴審(東京高裁平成19年11月1日判決)ともに、原告の主張は斥けられ、タックス・ヘイブン対策税制は日星租税協定に違反しないとの判断が示されている。本件は、原告が個人であり根拠条文は異なるが、争点は概ね法人税事案を踏襲したものとなっている。
裁判所の判断
(1)争点1について
措置法40条の4は、特定外国子会社等が適用対象留保金額を有する場合に、それが当該特定外国子会社等の株主である我が国の居住者に帰属するものとして課税しているのではなく、上記のように一定の要件を満たす場合には、株主である我が国の居住者の有する株式等に対応するものとして算出された一定の金額は、株主に利益移転があったものとみなすべきであることから、そのあるべき利益移転に対して課税するために、当該居住者の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入することとしたものであって、シンガポール法人の所得を株主である我が国の居住者に帰属させるものではない。(中略)
措置法40条の4は、日星租税協定7条1項に反するものではないというべきである。
(2)争点2について
認定事実によれば、平成13年事業年度において、A社の収入および所得において株式の保有によるものが占める割合はいずれも99.5%を超えており、(中略)これらの具体的かつ客観的な事業活動の内容をみれば、A社の平成13事業年度における主たる事業は、株式の保有にあったと認めるほかないというべきである。(中略)
A社は、措置法40条の4第3項の適用除外要件のうち、非持株会社等基準を満たさないことが明らかであるから、その余の基準を満たすか否かを判断するまでもなく、措置法40条の4第3項の適用除外規定の適用はない。
(3)争点3について
非持株会社等基準を充足しないと認められる外国法人について、更に「経済合理性」を検討しなければならないとすることは、およそ不必要かつ不適当というべきであって、採るべき解釈とは到底いえない。
しかも、そもそも租税法は、侵害規範であり、納税者の予測可能性および法的安定性の要請が強く働くから、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、その明確性および法的安定性を重視すべきことは当然であるところ、措置法40条の4第3項で定められた適用除外要件のほかに、条文上全く規定されていない「経済合理性」というようなおよそ不明確な要件を付加し、これにより同条1項の適用の可否を判断することは、タックス・ヘイブン対策税制の適用についての明確性および法的安定性を損なうことになることは明らかであるから、適用除外要件を充足しない外国法人について、更に経済合理性の検討を要するという考え方はおよそ採り得ない。
本件各処分は適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから棄却する。
※
記事の無断転用や無断使用はお断りいたします
⇒著作権等について
T&Amaster 読者限定サイト
検索結果(注:閲覧には読者IDとパスワードが必要になります)⇒ID・パスの取得方法
キーワード 「タックス・ヘイブン」⇒27件
(週刊「T&A master」278号(2008.10.13「今週のニュース」より転載)
(分類:税務 2008.12.3 ビジネスメールUP!
1202号より
)
|