課税庁の適用した比較対象取引・独立企業間価格は不合理
シークレット・コンパラブルの問題点には言及せずに課税処分を取消し
東京高裁第16民事部(宗宮英俊裁判長)は平成20年10月30日、移転価格税制を適用した課税処分等の取消しを求めた事案の控訴審(一審は国が勝訴)において、「本件算定方法は、それぞれの取引の類型に応じ、本件国外関連取引の内容に適合し、かつ、基本3法の考え方から乖離しない合理的な方法とはいえないもの」などと判示し、控訴人の主張どおりに更正処分等を取り消す逆転判決を言い渡した。
本件訴訟は、国が所定の期間内において上告手続をとらなかったことで確定した。
事案の概要
本件は、処分行政庁が、控訴人(A社)とA社の国外関連者であるB社等との間で行われた役務提供取引について、A社がB社等から支払いを受けた対価の額が措法66条の4第2項所定の独立企業間価格に満たないとして、同役務提供取引が独立企業間価格により行われたものとみなして計算した所得金額を基に、法人税の増額更正等をしたことから、A社がB社等から支払いを受けた対価の額は独立企業間価格に満たないものではなく、被控訴人が独立企業間価格であると主張する金額は独立企業間価格ではない旨主張して、同更正のうち確定申告及び修正申告に係る所得金額及び納付すべき税額を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定の各取消しを求めた事案である。
前提事実
(1)本件において課税の対象となった国外関連取引は、本件国外関連者が日本にある卸売業者等に対して販売した、A社とB社等との間の業務委託契約書記載のソフトウェア製品に関し、A社が、B社等に対し、本件各業務委託契約書によって締結された契約に基づき、同卸売業者等に対する役務を提供し、その対価としてB社等から手数料を受領するという取引である。
(2)処分行政庁は、A社がB社等から支払いを受けた対価の額が当該役務提供に係る独立企業間価格に満たないことから、措法66条の4第1項の規定に基づき、当該役務提供取引が独立企業間価格により行われたものとみなして(国外関連者への所得移転額を認定して)更正処分等を行った。
(3)処分行政庁が本件国外関連取引の独立企業間価格を算定するにあたって用いた算定方法は、「再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法」に当たるものである。処分行政庁は、本件に基本3法と同等の方法を適用するために必要な比較対象取引を見いだすことができず、A社製品と同種又は類似のソフトウェアについて、比較対象法人が非関連者との間で行った受注販売の再販売取引を比較対象取引に選定した。
原審(東京地裁)の判断
原審では、争点@(本件手数料の額が独立企業間価格に満たないものであるか)、争点A(本件各処分に質問検査権限の行使に係る違法事由があるか)について争われ、「本件算定方法は再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たり、本件比較対象取引に比較可能性があり、適正な差異の調整が行われていることが認められる。」「措法66条の4第9項所定の要件を満たすことなくされた(本件比較対象法人に対する)質問又は検査の結果得られた資料に基づく課税処分された場合に、直ちに重大な違法であると解することはできない。」などと判示して、更正処分等を容認した。
東京高裁の判断
宗宮裁判長は、争点@について以下のように判示したうえで、他の争点の検討を要することなく、本件算定方法を用いて独立企業間価格を算定した過程には違法があるとして、更正処分等を取り消した。
「(前略)取引の内容に適合し、かつ、基本3法の考え方から乖離しない合理的な方法であるか否かを判断するに当たっても、上記の機能やリスクの観点から検討すべきものと考えられる。」
「本件国外関連取引は、(中略)法的にも経済的実質においても役務提供取引と解することができるのに対し、本件比較対象取引は、本件比較対象法人が対象製品であるグラフィックソフトを仕入れてこれを販売するという再販売取引を中核とし、その販売促進のために顧客サポート等を行うものであって、A社と本件比較対象法人とがその果たす機能において看過し難い差異がある。」
「A社は、(中略)報酬額が必要経費の額を割り込むリスクを負担していないのに対し、本件比較対象法人は、その売上高が損益分岐点を上回れば利益を取得するが、下回れば損失を被るのであって、本件比較対象取引はこのリスクを想定(包含)した上で行われているのであり、A社と本件比較対象法人とはその負担するリスクの有無においても基本的な差異があり(後略)」
「以上によれば、本件国外関連取引においてA社が果たす機能及び負担するリスクは、本件比較対象取引において本件比較対象法人が果たす機能及び負担するリスクと同一又は類似であるということは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。本件算定方法は、それぞれの取引の類型に応じ、本件国外関連取引の内容に適合し、かつ、基本3法の考え方から乖離しない合理的な方法とはいえないものといわざるを得ない。そうすると、処分行政庁が本件取引に適用した独立企業間価格の算定方法は、措法66条の4第2項第2号ロに規定する「再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法」に当たるということはできない。」
「したがって、本件において、本件算定方法を用いて独立企業間価格を算定した過程には違法があり、結局、措法66条の4第1項に規定する国外関連取引につき「当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たない」との要件を認めることはできないことになるから、上記独立企業間価格を用いてした本件各更正は違法であり、これを前提とする本件各賦課決定も違法である。」
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(週刊「T&A master」284号(2008.11.24「今週のニュース」より転載)
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